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横浜地方裁判所 昭和58年(行ウ)8号 判決

原告 有限会社一福商事 ほか一名

被告 横浜中税務署長

代理人 齋藤隆 安達繁 山田文夫 高橋一雄 原敏之 ほか二名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告らに対してなした次の各処分を取り消す。

(一) 原告有限会社一福商事の昭和五〇年一〇月一日から昭和五一年九月三〇日までの事業年度の法人税について、昭和五五年七月三一日にした更正処分及び重加算税の賦課決定(但し、いずれも審査裁決により一部取消された後のもの)のうち、所得の金額五九八万三五六八円、法人税額一六七万五二〇〇円を超える部分

(二) 原告横浜起業有限会社の昭和五〇年三月一日から昭和五一年二月二九日までの事業年度の法人税について、昭和五五年七月一六日にした更正処分及び重加算税の賦課決定(但し、いずれも審査裁決により一部取消された後のもの)のうち、所得の金額九二四万五三七一円、法人税額二八五万八〇〇〇円を超える部分

(三) 原告横浜起業有限会社の昭和五二年三月一日から昭和五三年二月二八日までの事業年度の法人税について、昭和五五年七月一六日にした更正処分及び重加算税の賦課決定(但し、いずれも審査裁決により一部取消された後のもの)のうち、所得の金額二三三二万二一九三円、法人税額八四八万八八〇〇円を超える部分

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らはそれぞれ特殊浴場業を営む会社であり、山村鉄夫が実質的に支配、統括する法人である。

2  原告有限会社一福商事(以下「原告一福商事」という。)の昭和五〇年一〇月一日から昭和五一年九月三〇日までの事業年度(以下「昭和五一年九月期」という。)にかかる法人税について、同原告が行つた確定申告及び修正申告、これに対して被告のした更正処分及び重加算税の賦課決定、同原告の行つた不服審査の経緯は、別表一1記載のとおりである。

3  原告横浜起業有限会社(以下「原告横浜起業」という。)の昭和五〇年三月一日から昭和五一年二月二九日までの事業年度(以下「昭和五一年二月期」という。)及び昭和五二年三月一日から昭和五三年二月二八日までの事業年度(以下「昭和五三年二月期」という。)にかかる各法人税について、同原告が行つた各確定申告及び各修正申告、これに対して被告のした各更正処分及び重加算税の各賦課決定、同原告の行つた不服審査の経緯は、別表一2、3記載のとおりである。

4  被告が原告一福商事の昭和五一年九月期の法人税についてした更正処分(以下「本件一の更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定(以下これらの処分を併せて「本件一の処分」という。)並びに原告横浜起業の昭和五一年二月期及び昭和五三年二月期の各法人税についてした各更正処分及び重加算税の各賦課決定(以下、昭和五一年二月期の更正処分を「本件二の更正処分」といい、昭和五三年二月期の更正処分を「本件三の更正処分」といい、重加算税の賦課決定と併せて「本件二の処分」、「本件三の処分」という。)は、次のとおり、同原告の所得を過大に認定した違法がある。

(一) 収入関係

(1) 入浴料収入

後記のとおり、被告は原告らの入浴料収入を使用されたタオルセツトの数量等から推計しているが、〈1〉入浴客一人当たりのタオルセツト使用数量がホステス分を含めて二組以上になること、〈2〉タオルセツト使用数量の認定に当たり、在庫数量を見落としていること、〈3〉原告らがタオルセツトのクリーニング代金を帳簿に記載しなかつた割合は時期によつて一定しておらず、被告のタオルセツト数量の認定基礎となつた資料等が著しく正確性を欠いていること、〈4〉タオルセツトのクリーニング数量と入浴料収入との間に比例関係がないことからして、被告が行つた原告らの入浴料収入に関する推計は合理性を欠くものである。

(2) 雑収入

被告の推計した原告らの雑収入についても、その推計が前項の入浴料収入に基づいてなされたものであるから、合理性を欠くうえ原告らほか七社及び山村鉄夫に対する法人税法違反被告事件(東京地方裁判所昭和五四年(わ)第二九九八号、以下「本件刑事事件」という。)において認定された金額に照らしても過大である。

(3) 預金額による推計

後記のとおり、被告は原告らの預金額から収入を推計しているところ、右預金額には、原告らが預金口座開設の際に新規に入金した金額も含まれており、その新規入金額はその直近に解約された仮名預金のうちから入金されたものであつて、収入金額を預金金額により推計する際には新規入金額を控除して推計すべきであるにもかかわらず、被告は新規入金額を含めて推計しているから、合理性を欠く推計である。

(二) 簿外経費等

(1) 顧問料、紹介料等

原告らは全国友愛連盟総会に対し、各事業年度において平穏かつ円滑に営業を継続するため、帳簿に記載せずに顧問料、紹介料等の名義で支出しており、原告一福商事が昭和五一年九月期において七二〇万円、原告横浜起業が昭和五一年二月期において七二〇万円、昭和五三年二月期において四八〇万円をそれぞれ支出しているから、右各金額を損金の額に算入すべきである。

(2) 株式売買損

原告らを含む九社(以下「山村関連会社」という。)は実質的に山村鉄夫の支配下にある同一企業であつて、山村鉄夫が右各社の収入を集め、この中から給与その他の経費を支払い、その残金を管理していた。

そして、山村鉄夫は、山村関連会社の受託者として、不安定要素をかかえる山村関連会社全体の安定と拡張を図り、また、他業種への進出を図る目的で昭和五二年八月二九日から同年一二月二四日までの間に日興証券株式会社横浜駅前支店を通じて大量の株式取引を行つたが、総額二億七二八二万二一四六円(山村関連会社一社当たり三〇〇〇万円)の損失を受けた。

したがつて、原告横浜起業の昭和五三年二月期の法人税に関しては、右株式売買損三〇〇〇万円を損金に算入すべきである。

(3) 機密費、交際費等

原告らは山村鉄夫の補佐をしていた奥山博久に対し、関係官庁対策費、政治家、その支援者、警察出身者への根回し資金並びに近隣風俗営業関係者に対する顧客斡旋料等の機密費、交際費を帳簿に記載せずに渡しており、その金額は、原告一福商事が昭和五一年九月期において六一〇万円、原告横浜起業が昭和五一年二月期において一四九〇万円、昭和五三年二月期において一四四〇万円となるから、右各金額を損金に算入すべきである。

(4) 給与

原告横浜起業は、昭和五一年二月期において、奥山博久に対して四五〇万円の給与を簿外で支払い、また、昭和五〇年二月から昭和五三年八月中旬まで平田喜彦を同原告の店長として雇用し、昭和五一年二月期において、歩合給六〇〇万円を簿外で支給したから、右金額を経費に算入すべきである(なお、審査裁決においては、平田喜彦に対する歩合給六〇〇万円のうち四〇〇万円を超える部分が認められなかつた。)。

(5) 寄付金

原告横浜起業は、昭和五三年二月期において、神奈川県韓国綜合教育院に対して三〇〇万円を簿外で寄付したから、右金額を損金に算入すべきである。

(三) 重加算税の賦課決定

重加算税の課税要件は事実の隠ぺい又は仮装であり、その典型的事例としては、二重帳簿の作成、売上の除外、架空仕入れ、架空経費の計上、たな卸資産の一部又は全部の除外等があげられるところ、原告らの雑収入の計上漏れは、単純な過少申告であつて、ことさらに隠ぺい又は仮装したものとは認められず、雑収入の計上漏れ部分についてした重加算税の賦課決定は違法である。

よつて、本件一ないし三の各処分のうち、原告らが修正申告した所得金額及び法人税額を超える部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の各事実は認める。

2  同4は争う。

三  被告の主張

1  原告一福商事関係

(一) 原告一福商事は、昭和五一年九月期当時、横浜市中区福富町西通四五番地の二において「トルコ太閤」の名称で個室付浴場業を営んでいたが、関係帳簿書類に虚偽な記載をしたり、原始伝票等を改ざん又は破棄する等の悪質な操作を加えて計画的に多額の収入を計上せずに納税申告を行つたため、被告は、同原告の所得を把握するために推計する必要があり、次のとおり、所得を推計して本件一の更正処分を行つたものである。

(二) 主位的主張

被告は、原告一福商事の昭和五一年九月期の収入について、入浴客が必ず使用するタオルセツト数を基準にして、鷲見一恵(山村鉄夫の妻で旧姓「山村」である。以下「山村一恵」という。)作成のメモ(以下「山村メモ」という。)及びタオルセツトの納品書の控え等によつて判明する時期の使用タオルセツト数量及び同期間の入浴料収入を把握し、同期間におけるタオルセツト一組当たりの入浴料収入金額を算出し、これに昭和五一年九月期における使用タオルセツト数を乗じて同期の入浴料収入及び雑収入を推計した。すなわち

(1) 原告一福商事の昭和五一年九月期の所得は、二六八八万五五〇九円であり、その内訳は次のとおりである。

I 申告所得金額        五九八万三五六八円

II 加算金額(1+2)    二八七五万七二五〇円

1 入浴料収入金額計上漏れ 二三五三万〇六五七円

2  雑収入金額計上漏れ    五二二万六五九三円

III 減算金額(1+2+3)   七八五万五三〇九円

1 衛生費の金額        五三万八四五〇円

2 給料の金額         一三万一〇〇〇円

3  繰越欠損金の控除額    七一八万五八五九円

IV 所得金額(I+II-III)  二六八八万五五〇九円

(2) 加算金額 二八七五万七二五〇円

加算金額は、〈1〉客が入浴の都度必ず使用するタオルセツトの昭和五二年三月から同年八月までの使用数量と同期間内の入浴料収入から、使用タオルセツト一組当たりの入浴料収入を算定し、これに昭和五一年九月期の使用タオルセツト数を乗じて同期の入浴料収入金額を推計し、また、〈2〉昭和五二年三月から同年六月までの入浴料収入と雑収入との比率から、昭和五一年九月期の雑収入を推計し、その合算金額から申告に係る総収入金額との差額を計上漏れの総収入金額と認定した。

なお、原告一福商事の入浴料金は、昭和五二年春以前までは九〇分で七〇〇〇円であつたが、それ以降、六〇分で四〇〇〇円、午後七時までに入店した客にはサービスタイム料金として一〇〇〇円であり、また、延長料金は、昭和五二年春以前も以後も同じく三〇分ごとに二〇〇〇円であるから、昭和五二年春以降、入浴料金が安くされたのであり、かつ、昭和五一年九月期におけるタオルセツトの組合せ及びタオルセツトの使用方法は、昭和五二年三月から同年八月までの期間におけるものと変化がない。

したがつて、昭和五一年九月期の入浴料収入について、昭和五二年三月から同年八月の入浴料金額と使用タオルセツト数量で推計することは、同原告に有利になることはあつても不利な推計とはならない。

〈1〉 入浴料収入計上漏れ 二三五三万〇六五七円

イ タオルセツト数量

原告一福商事にタオルセツトを納入していた久保木正義(屋号を「司商会」という。以下「久保木」という。)が保管していた納品書の控え(昭和五二年一月分から同年九月分までのもので、別表二記載の内容である。)から、久保木に対する支払金額のうちタオルセツト代金の占める割合を別表二記載のとおり七七・七八パーセントと認めた。

次に、同原告が昭和五一年九月期において久保木に支払つた帳簿記載の金額に右割合を乗じてタオルセツトリース代金として支払つた金額を算出し、その金額をタオルセツト一組のレンタル代金五五円で除してタオルセツト数量を推計すると、別表三記載のとおりとなる(但し、同原告は昭和五一年八月一六日から同年一一月十三日まで営業停止処分を受けて休業していたから、同年九月分二万四二〇〇円は同年八月分とした。)。

しかし、久保木保管にかかる納品書には、昭和五一年八月分を除くその余の期間分(但し、同原告は昭和五一年九月に休業中であつたから、同月に納品されたタオルセツトはない。)が実際の納品金額の半分しか記載されていないため、別表三記載のタオルセツト数量一万〇六七九組から昭和五一年八月分の八八九組を控除した数量を二倍にし、同年八月分の数量を加えた二万〇四六九組が実際の使用数量であつた。

ロ タオルセツト一組当たりの入浴料収入

原告一福商事の昭和五二年三月から同年八月までの使用タオルセツト数量は、久保木の保管にかかる納品書控えによれば、別表四記載のとおり六七二〇組であるが、右数量は実際に納品された数量の半分であるから、右数量を二倍した一万三四四〇組とした。

そして、同原告の昭和五二年三月から同年八月までの入浴料収入金額が五三五七万六〇〇〇円であるから、右入浴料収入金額を同期間の使用タオルセツト数量で除し、タオルセツト一組当たりの入浴料収入を算出すると、三九八六・三〇九五円となる。

ハ 昭和五一年九月期の入浴料収入の推計

以上によつて、原告一福商事の昭和五一年九月期における入浴料収入を推計すると、次のとおり、八一五九万五七六九円となる。

53,576,000/13,440(組)×20,469(組)=81,595,769円

右金額から同原告の申告に係る入浴料収入金額五八〇六万五一一二円を控除した二三五三万〇六五七円が入浴料収入の計上漏れ金額となる。

〈2〉 雑収入計上漏れ 五二二万六五九三円

原告一福商事は、出勤したホステスから入浴客の飲食の有無にかかわらず扱い客一人当たりコーラ代として一〇〇円を、ホステス一人当たりタオル代として一日五〇〇円を徴収し、これを雑収入として経理していたが、公表された帳簿類には計上されず、かつ、その金額を認定する帳簿等は改ざん又は破棄されていたため、次のとおり、昭和五二年三月から同年六月までの雑収入金額二一一万五七〇〇円と同期間の入浴料収入金額三二七三万八〇〇〇円との比率に前記1(二)(2)〈1〉記載の昭和五一年九月期の入浴料収入金額を乗じて五二七万三一四三円と推計した。

2,115,700/32,738,000 ×81,595,769円=5,273,143円

右金額から原告一福商事が帳簿に記帳していた雑収入金額四万六五五〇円を控除した五二二万六五九三円が雑収入の計上漏れ金額となる。

(3) 減算金額 七八五万五三〇九円

右金額は、原告一福商事が昭和五一年九月期に損金経理により費用又は損失として計上した金額以外のもの及び所得金額から控除すべき繰越欠損金額の合計である。

〈1〉 衛生費の金額 五三万八四五〇円

原告一福商事が衛生費勘定として帳簿に計上した昭和五〇年一〇月から昭和五一年七月分までのタオルセツトレンタル料は、前記1(二)(2)〈1〉の記載のとおり、実際の支払金額の二分の一であるから、同原告の昭和五一年九月期の衛生費は、昭和五〇年一〇月から昭和五一年七月分までのタオルセツトレンタル料が半額しか経費として計上していないことになり、その金額五三万八四五〇円を未計上の衛生費として控除することにした。

〈2〉 給料の金額 一三万一〇〇〇円

原告一福商事が久保郁子に支払つた給料一三万一〇〇〇円は、帳簿に記載されていないため右金額を未計上の経費として認めた。

〈3〉 繰越欠損の控除額 七一八万五八五九円

原告一福商事の前事業年度以前の繰越欠損金のうち、昭和五一年九月期の所得金額から控除すべき金額である。

(4) 以上のとおり、原告一福商事の昭和五一年九月期における所得金額は、二六八八万五五〇九円であるところ、本件一の更正処分にかかる所得金額は九一六万六三一〇円(審査裁決により一部取消された後の金額)であるから、本件一の更正処分は適法である。

(三) 予備的主張

主位的主張において主張した推計方法は、真実の金額に最も近似した所得金額を推計する合理的な方法であるが、予備的に、本件刑事事件において採用された預金額による推計方法に基づいて、原告一福商事の昭和五一年九月期の所得金額を推計すると次のとおりとなる。

(1) 原告一福商事は、昭和五一年九月期における収入を横浜商銀信用組合本店の架空名義普通預金口座に預け入れており、右預金額が総収入金額と推計される。

そして、右架空預金の普通預金金額は、<証拠略>のとおりとなる(但し、昭和五〇年一〇月分を除く。)。

なお、昭和五〇年一〇月分については、原告一福商事が開業した月であるため入浴料収入のかなりの部分を右金融機関に預け入れずに直接山村鉄夫に手渡されており、また、帳簿に記載された入浴料収入が実際の入浴料収入よりも過少であるところ、右同月分の預金額が二二八万四八〇〇円であるのに対し、帳簿記載の入浴料収入が四一五万三〇〇〇円であることから、預金額によつて推定することが不合理であり、さらに、同原告の費用のうち現金払いのものが預金に預けられずに直接入浴料収入から支払われていること等から、雑収入の計上漏れはあるものの預金金額よりは合理性のある帳簿記載金額である四一五万三〇〇〇円を同月の収入金額とする。

もつとも、預金の入金額による推計は、実際の売上金額の判明する昭和五二年三月から同年九月までの間における預金入金額と実際の売上金額とを比較すると、別表五2記載のとおり、預金入金額が二・九三パーセント過少になり、原告一福商事に有利な推計となつている。

以上によれば、原告一福商事の昭和五一年九月期の収入総額は、別表五1記載のとおり、六九一〇万三一六三円となる。

(2) 右金額から、原告一福商事の申告に係る入浴料収入五八〇六万五一一二円、帳簿記載の雑収入金額四万六五五〇円及び前記1(二)(3)記載の減算金額七八五万五三〇九円をそれぞれ控除した三一三万六一九二円が計上漏れの所得となるから、これに同原告申告所得五九八万三五六八円を加算した九一一万九七六〇円が所得金額となる。

右金額は、本件一の更正処分(審査裁決により一部取消された後の金額)において認定された所得金額九一六万六三一〇円よりも四万六五五〇円少額であるに過ぎず、前記1(三)(1)記載のとおり預金にすべての収入が入金されていなかつたことが認められ、預金額による推計が控え目なものであることを考慮すれば、本件一の更正処分は適法である。

2  原告横浜起業の昭和五一年二月期関係

(一) 原告横浜起業は、昭和五一年二月期当時、横浜市中区曙町一丁目五番地において「トルコ女子寮」の名称で個室付浴場業を営んでいたが、関係帳簿書類に虚偽な記載をしたり、原始伝票等を改ざん又は破棄する等の悪質な操作を加えて計画的に多額の収入を計上せずに納税申告を行つたため、被告は、同原告の所得を把握するために推計する必要があり、次のとおり、所得を推計して本件二の更正処分を行つたものである。

(二) 主位的主張

被告は、原告横浜起業の昭和五一年二月期の収入について、タオルセツトの納品書の控え及び山村メモ等によつて把握した期間の使用タオルセツト数量と総収入からタオルセツト一組当たりの総収入を算定し、これに昭和五一年二月期のタオルセツト数量を乗じて総収入金額を推計したから、合理的な推計に基づく所得金額である。

(1) 原告横浜起業の昭和五一年二月期の所得は、三四五〇万八四二一円であり、その内訳は次のとおりである。

I 申告所得金額       九二四万五三七一円

II 加算金額        三〇五六万八九四一円

入浴料収入金額計上漏れ 三〇五六万八九四一円

III 減算金額(1+2+3)  五三〇万五八九一円

1 衛生費の金額       六三万六八四五円

2 給料の金額         四万八〇〇〇円

3  繰越欠損金の控除額   四六二万一〇四六円

IV 所得金額(I+II-III) 三四五〇万八四二一円

(2) 加算金額 三〇五六万八九四一円

加算金額は、客が入浴の都度必ず使用するタオルセツトの昭和五三年二月期の使用数量と同期の総収入金額から、同期におけるタオルセツト一組当たりの総収入を算定し、これに昭和五一年二月期の使用タオルセツト数量を乗じて同期における総収入を推計し、右金額から申告に係る総収入金額を控除した差額を計上漏れの総収入金額と認定した。

なお、同原告の昭和五一年二月期と昭和五三年二月期との入浴料金体系を比較すると、〈イ〉一般入浴料金は、昭和五一年二月期の初めから同年五月三一日までは四〇〇〇円であつたものが、同年六月一日以降三〇〇〇円となつたこと、〈ロ〉招待券による入浴客が昭和五一年二月期にはあり、昭和五三年二月期にはなかつたものの、招待券による入浴客にかかる入浴料金を当該ホステスから徴収していたこと、〈ハ〉サービスタイム料金による入浴客は、昭和五一年二月期中の昭和五〇年一一月一日以降あつたが、それ以前にはなかつたこと、〈ニ〉延長料金は、昭和五一年二月期も昭和五三年二月期も二〇〇〇円で同額であつたことからして、入浴客一人当たりの入浴料金額は昭和五三年二月期よりも昭和五一年二月期のほうが高額であり、かつ、タオルセツトの組合せ及びタオルセツトの使用方法に昭和五一年二月期と昭和五三年二月期とにおいて変化はないから、昭和五三年二月期のタオルセツト一組当たりの入浴料収入金額により昭和五一年二月期の入浴料収入を推計することは、同原告に有利であれ不利とはなつていない。

〈1〉 タオルセツト数量

原告横浜起業の昭和五一年二月期における使用タオルセツト数量は、同原告に納品していた久保木が保管していた納品書の控えにより別表六記載のとおり一万一五七九組であつた。

ところで、原告横浜起業は、実際に使用したタオルセツト数量の半分しか納品書を提出させておらず、残りの数量については簿外のものとしていたから、同原告の昭和五一年二月期における実際の使用タオルセツト数量は、二万三一五八組(11579×2)となる。

〈2〉 昭和五三年二月期の総収入及び使用タオルセツト数量

原告横浜起業の昭和五三年二月期における使用タオルセツト数は、同原告が昭和五二年三月から同年九月及び同年一二月から昭和五三年二月までは別表九記載の数量を公表しており、昭和五二年一〇月及び同年一一月分については、別表八記載のとおり衛生費に占めるタオルセツトリース料金の比率を算出し、これを衛生費に乗じ、かつ、タオルセツト一組当たりのリース代金五五円で除して使用タオルセツト数量を算出すると、別表九記載のとおり合計一万三〇七二組となるが、同原告は実際の数量の半額しか公表していないから、昭和五三年二月期における使用タオルセツト数量は右数量の二倍である二万六一四四組となり、また、同期の総収入は、後記3(二)(2)記載のとおり、七九七一万八七九〇円(入浴料収入七五六〇万一〇〇〇円、雑収入四一一万七七九〇円)である。

〈3〉 昭和五一年二月期の総収入の推計

原告横浜起業の昭和五三年二月期における総収入を使用タオルセツト数で除し、タオルセツト一組あたりの収入を算出し、右金額に昭和五一年二月期の使用タオルセツト数量を乗ずることにより、昭和五一年二月期の総収入を推計すると、次のとおり、七〇六一万三八二一円となる。

79,718,790円/26,144(組)×23,158(組)=70,613,821円

〈4〉 計上漏れ金額

右総収入金額から、原告横浜起業の申告に係る入浴料収入金額四〇〇一万七〇〇〇円及び雑収入金額二万七八八〇円を差し引いた三〇五六万八九四一円が計上漏れの総収入金額となる。

(3) 減算金額 五三〇万五八九一円

右金額は、原告横浜起業が損金経理により費用又は損失として計上した金額以外のもの及び当該事業年度の所得金額から控除すべき繰越欠損金額の合計額である。

〈1〉 衛生費の金額 六三万六八四五円

原告横浜起業は、前記2(二)(2)〈1〉記載のとおり、衛生費勘定として帳簿に使用タオルセツトリース代金の半額しか計上しておらず、実際の支払金額は、帳簿記載のタオルセツトリース代金の二倍であるから、計上漏れとなつている使用タオルセツトリース代金(帳簿記載の金額と同額)六三万六八四五円を簿外の衛生費として控除することにした。

〈2〉 給与の金額 四万八〇〇〇円

原告横浜起業は久保郁子に対し、昭和五一年二月期において四万八〇〇〇円を給与として支払つたが、計上漏れとなつているので右金額を控除することにした。

〈3〉 繰越欠損金の控除金額 四六二万一〇四六円

原告横浜起業の前事業年度以前の繰越欠損金であり、昭和五一年二月期において所得金額から控除すべき金額である。

(4) 以上のとおり、原告横浜起業の昭和五一年二月期における所得金額は、三四五〇万八四二一円であるところ、本件二の更正処分にかかる所得金額は二六六七万七二四七円(審査裁決により減額後の金額)であるから、本件二の更正処分は適法である。

(三) 予備的主張

主位的主張において主張した推計方法は、真実の金額に最も近似した所得金額を推計する合理的な方法であるが、予備的に、本件刑事事件において採用された預金額による推計方法に基づいて、原告横浜起業の昭和五一年二月期の所得金額を推計すると次のとおりとなる。

(1) 原告横浜起業は、昭和五一年二月期における収入を横浜商銀信用組合本店の架空名義普通預金口座に預け入れており、右預金額が収入金額と推計される。

そして、右架空預金の普通預金金額は、別表一〇記載のとおり、総額六六九九万四二一七円となる。

なお、同原告の昭和五三年二月期の架空預金額は、別表一一記載のとおり、総額五七五四万五三八六円となり、後記3(二)(2)記載の山村メモ記載の金額七九七一万八七九〇円と比較して、約二八パーセントも少なく、預金額により昭和五一年二月期の収入額を推計することは真実の収入金額を上回るものではない。

(2) 右のとおり、預金額から推計された六六九九万四二一七円から、原告横浜起業の申告に係る入浴料収入四〇〇一万七〇〇〇円、雑収入二万七八八〇円及び前記2(二)(3)記載の減算金額五三〇万五八九一円をそれぞれ控除した二一六四万三四四六円が計上漏れの所得となるから、これに同原告申告所得九二四万五三七一円を加算した三〇八八万八八一七円が所得金額となる。

右金額は、本件二の更正処分(審査裁決により一部取消された後の金額)において認定された二六六七万七二四七円より多額となるから、本件二の更正処分は適法である。

3  原告横浜起業の昭和五三年二月期関係

(一) 原告横浜起業は、昭和五三年二月期当時、横浜市中区曙町一丁目五番地において「トルコ女子寮」の名称で個室付浴場業を営んでいたが、関係帳簿書類に虚偽な記載をしたり、原始伝票等を改ざん又は破棄する等の悪質な操作を加えて計画的に多額の収入を計上せずに納税申告を行つたため、被告は本件三の更正処分を行つたものである。

(二) 被告は、原告横浜起業の昭和五三年二月期の収入について、山村メモの記載から昭和五三年二月期の入浴料収入を認定し、また、山村メモ及び「ホステス出勤票」の記載から入浴客数及び出勤ホステス延べ日数を把握し、雑収入を認定したものであるから、合理的な認定に基づく所得金額である。

(1) 原告横浜起業の昭和五三年二月期の所得は、三二三九万〇八六八円であり、その内訳は次のとおりである。

I 申告所得金額        二三三二万二一九三円

II 加算金額(1+2+3)   一一四八万一一八五円

1 入浴料収入金額計上漏れ   六五五万九一八五円

2 雑収入金額計上漏れ     四〇六万九六四〇円

3 事業税認定損の過大否認額   八五万二三六〇円

III 減算金額(1+2)      二四一万二五一〇円

1 衛生費の金額         六五万二五一〇円

2 給料の金額         一七六万〇〇〇〇円

IV 所得金額(I+II-III)   三二三九万〇八六八円

(2) 加算金額 三〇五六万八九四一円

加算金額は、原告横浜起業が帳簿の記載を正確に行わず、かつ、その記載の基となる原始記録そのものを改ざんし又は破棄し、同原告の帳簿書類では正確な収入金額を算出できないため、実際の「入浴客数」、「延長本数」、「入浴料収入金額」及び「雑収入金額」等を記載した山村メモの記載から入浴料収入を認定し、また、山村メモ及び「ホステス出勤票」の記載から雑収入を認定した。

〈1〉 入浴料収入金額計上漏れ 六五五万九一八五円

山村メモの記載から入浴料収入を七五六〇万一〇〇〇円と認定し、右金額から原告横浜起業の申告に係る入浴料収入金額六九〇四万一八一五円を差し引いた残額である。

〈2〉 雑収入金額の計上漏れ 四〇六万九六四〇円

原告横浜起業は、昭和五三年二月期において、出勤したホステスから入浴客の飲食の有無にかかわらず、扱い客一人当たり一〇〇円をコーラ代として、また、ホステス一人当たり一日三〇〇円を、扱い客一人当たり一〇〇円をそれぞれタオル代として徴収していた。

そこで、山村メモ及び「ホステスの出勤票」の記載から、入浴客数及び出勤ホステス延べ日数を認定し、入浴客数に一〇〇円を乗じてコーラ代の総額を算定し、また、出勤ホステス延べ日数に三〇〇円を乗じた金額及び入浴客数に一〇〇円を乗じた金額を合算してタオル代の総額を算定(但し、昭和五二年三月、五月及び六月分については山村メモに記載された雑収入金額による。)すると、別表一二1記載のとおり、総額四一一万七七九〇円となり(但し、昭和五二年九月分及び昭和五三年二月分には、その他の公表された雑収入が加算されている。)、右金額から同原告が帳簿に記載していた雑収入金額四万八一五〇円を控除した四〇六万九六四〇円が計上漏れの雑収入金額となる。

なお、右算定方法により同原告の昭和五二年三月、五月及び六月分の各雑収入を算出すると別表一二2のとおりとなつて、その金額に大きな差異はない。

〈3〉 事業税の認定損の過大否認額 八五万二三六〇円

原告横浜起業は、再修正申告書において、昭和五二年二月期に係る事業税の認定損として五六九万八三二〇円を昭和五三年二月期の損金の額に算入したが、被告の同原告に対する昭和五二年二月期の減額更正処分に伴つて当該再修正申告書において認容すべき昭和五二年二月期の事業税額は四八四万五九六〇円となり、同原告が昭和五三年二月期の損金に算入した事業税認定損の金額が過大となるから、その過大に控除した八五万二三六〇円を益金に加算すべきである。

(3) 減算金額 二四一万二五一〇円

右金額は、原告横浜起業が損金経理により費用又は損金として計上しなかつた金額以外のものの合計額である。

〈1〉 衛生費の金額 六五万二五一〇円

原告横浜起業が昭和五三年二月期の帳簿に計上したタオルセツトのリース料は、昭和五二年三月から同年七月まで及び同年九月から昭和五三年二月分については、公表された衛生費が実際の支払金額の二分の一であり(別表七参照)、また、昭和五二年八月分は実際の支払金額の二分の一相当額に六万六四五〇円を加算した金額である(なお、別表八記載の金額は、各月とも一日から月末までの金額であつて、公表されている金額は各月とも二六日から翌月二五日までの支払金額である。)から、前記2(二)(2)〈2〉のとおり、使用タオルセツト数二万六一四四組にタオルセツト一組当たりのリース代金五五円を乗じて実際のタオルセツトリース代金一四三万七九二〇円を算出し、右金額から公表されたタオルセツトのリース代金七八万五四一〇円を控除した六五万二五一〇円を簿外の経費として控除することにした。

〈2〉 給料の金額 一七六万円

原告横浜起業は、昭和五三年二月期において、従業員平田喜彦に対し一五八万円、同久保郁子に対し一八万円の給料をそれぞれ支払つているが、帳簿に計上されていないから、右金額を同原告の簿外の給料として控除することにした。

(4) 以上のとおり、原告横浜起業の昭和五三年二月期における所得金額は、三二三九万〇八六八円であるところ、本件三の更正処分に係る所得金額は三二三七万三二〇八円(但し、審査裁決により一部取消された後の金額)であるから、本件三の更正処分は適法である。

4 重加算税の賦課決定

原告らは被告に対し、期限内に確定申告書を提出し、また、右確定申告に係る修正申告書を提出したが、右各申告書に記載された課税標準及び税額等は、その計算基礎となる収入金額の一部を隠ぺい又は仮装した過少な収入金額に基づいて計算されていた。

すなわち、原告らは、従業員らに指示して実際の収入金額を記載した書類を全面的に書き換えさせたり、又はこれを破棄させるなどの方法によつて、収入金額の一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装した金額に基づき確定申告書及び修正申告書を提出した。

このことは、昭和五九年三月法律第五号による改正前の国税通則法(以下「国税通則法」という。)六八条一項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に当たるから、原告らの修正申告及び被告の更正処分により納付すべき法人税額に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税の賦課決定を行つた。

したがつて、原告らに対する重加算税の賦課決定は適法である。

5 原告らの主張に対する反論

(一) 収入金額推計に関する反論

(1) 原告らは、入浴客一人当たりのタオルセツトの使用数量がホステス分を含めると概ね二組以上になる旨主張するが、前記のとおり、被告の主張する推計方法は、入浴客がタオルセツト一組を使用するとの前提に基づいて行つたものではなく、基準年度と対比して単純な比例計算の方法で収入金額を推計したに止まるから、入浴客一人当たりでどの程度のタオルセツトを使用するかなどということは、右推計方法の合理性の有無を判断するに意味のないことである。

(2) 原告らは、タオルセツト使用数量の認定に当たり、タオルセツトの在庫数量を見落としている旨主張するが、およそタオルセツトの在庫数量などというものは、期首と期末とで大差があるとは考えられず、考慮する必要のないものである。

(3) 原告らは、タオルセツトのリース料金のうち、簿外割合が時期によつて一定していないから、被告の主張するタオルセツト数量の認定基礎が正確性を欠く旨主張するが、そのような証拠はなく、むしろ、久保木の保管していた納品数量を記載した「日計票」によれば、別表七記載のとおり、帳簿に記載しなかつた割合は五七パーセントとなり、簿外割合を五〇パーセントとして使用タオルセツト数量を推計した被告の推計方法は原告らに有利であれ、不利であることはない。

(4) 原告らは、タオルセツトの納品数量と入浴料収入との間に比例関係がない旨主張するが、原告らが営んでいた個室付浴場業においては、入浴客がタオルセツトを必ず使用するのであり、入浴料収入を得るために必要欠くべからざるものであつて、タオルセツト以上に収入金額との間に比例関係があるものはない。

(5) 原告らは、預金額による収入金額の推計に関し、新規預金額を預金総額から控除して収入金額を推計すべきである旨主張するが、〈1〉原告らが仮名預金口座を解約し、新規の仮名預金口座を開設するまでには何日かの空白期間があること、〈2〉仮名預金口座の新規預入の金額が原告らの経常的な預金額と同様に一万円又は一〇〇〇円の単位であり、この点から原告らの経常的な預金と同性質と考えられること、〈3〉新規預金額が原告らの経常的な預金額の範囲内の金額であること、〈4〉仮名預金口座からまとめて引き出すことと原告らの売上を入金することが同日付けで別個独立に行われていること、〈5〉山村鉄夫が従業員に対する内部牽制と真実の収入金額を把握するため、仮名預金口座を金庫代わりに使用して、売上金をこまめに入金させていたことからして、入金と預金引出しとは全く性格の異なる別ルートの行為であり、また、一般的にも大口の仮名預金を引き出して他の仮名預金の開設資金にするとは考え難く、新規預金は直近に解約された仮名預金からではなく、売上から入金されたものである。

(二) 簿外経費等に関する反論

(1) 原告らは、全国友愛連盟総会に対して顧問料、紹介料等を支払つていたから、これを損金に算入すべきである旨主張するが、原告らは、その支払年月日、金額等を具体的に主張せず、右支払事実を証する領収書等の客観的証拠を示さないうえ、山村鉄夫が本件刑事事件において検察官に対し、顧問料、紹介料等を帳簿に記載せずに支払つたことはない旨供述していることに照らして、右事実は認められないものである。

(2) 原告横浜起業は、山村鉄夫が原告らからの受託者として行つた株式取引にかかる損失三〇〇〇万円を昭和五三年二月期の損金に算入すべきである旨主張する。

しかし、〈1〉原告横浜起業と山村鉄夫との間において、同原告の売上除外による資金の運用を山村鉄夫に委託する旨の契約書はないこと、〈2〉山村鉄夫は山村関連会社の売上除外による資金を一括して管理・運用しており、同原告に相当する分の区分管理・報告等を一切行つていないこと、〈3〉同原告の決算・納税申告においては、右株式取引にかかる事項は一切公表していないこと、〈4〉山村鉄夫は、右株式取引において、日興証券株式会社横浜駅前支店等の取引口座を山村鉄夫名義のほか山村一恵又は架空名義で開設し、余人を介することなく、山村鉄夫自身が売り買いの注文はもとより金銭の授受決済及び株券の引き渡しを含む取引手続を行つており、右株式取引が山村関連会社の取引であることを右証券会社に告知していないこと、〈5〉山村鉄夫は検察官に対し、本件刑事事件において右株式取引が山村関連会社のためではなく、山村鉄夫自身のために特殊浴場店舗の拡張資金を取得し、又は山村鉄夫自身がまともな事業に踏み出すための資金を蓄積する目的あると供述していることからして、右株式取引にかかる運用損金は、山村鉄夫個人に帰属するものであつて、同原告に帰属するものではない。

(3) 原告らは、奥山博久に対して機密費及び交際費を帳簿に記載せずに支出していた旨主張するが、原告らの右主張は、支払先等個々の支払事実に関する個別、具体的なものではなく、かつ、領収書等の客観的な証拠に基づかないものであり、むしろ、山村鉄夫及び山村一恵が検察官に対し、本件刑事事件において機密費及び交際費等を簿外で支払つた旨の供述をしておらず、また、山村鉄夫が原告らの営業収支を極めてち密に把握・管理し、かつ、細大漏らさず営業利益を確保していたのであるから、支払つたことを証する書類を徴収せずに毎期一〇〇〇万円以上の金員を奥山博久に渡したとは考えられない。

(4) 原告横浜起業は、昭和五一年二月期において、奥山博久に四五〇万円、平田喜彦に対して六〇〇万円を帳簿に記載せずに給与として支払つた旨主張するが、同原告は、支払年月日、支払月額及び支払方法等の支払事実に関する個別的、具体的主張をしないばかりか、右支払事実を証する給与台帳、支払伝票等の客観的証拠を示さないのであるから、右事実は認められない。

(5) 原告横浜起業は、昭和五三年二月期において、神奈川県韓国綜合教育院に対して帳簿に記載せずに三〇〇万円を寄付したから、右金額を損金に算入すべきである旨主張するが、同原告の主張する支出先が「財団法人神奈川韓国綜合教育院」であるならば、同法人は昭和五八年三月二四日に設立許可されたのであるから、昭和五三年二月期において寄付することはできず、また、支出先が右法人でないとするならば、いかなる団体であるかが不明であるうえ、同原告の事業目的、業種、業態等に照らすと教育機関であると思われる神奈川県韓国綜合教育院に多額の寄付を行うことは極めて奇異なことであり、その支出すべき理由を見い出すことができず認めることができない。

(三) 重加算税の賦課決定に関する反論

原告らは、原告らの雑収入の計上漏れが入浴料収入の計上漏れとは異なり、単純な過少申告と見るべきものであつて、これをことさらに隠ぺい又は仮装したものとは認められないから、雑収入の計上漏れについての増加算税の賦課決定が違法である旨主張する。

しかし、重加算税は、「納税者がその国税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に課されるものであるところ、右「隠ぺいし、又は仮装し」とは、取引の名義を仮装し、又は二重帳簿を作成するなどして正当に納付すべき税額を過少にしてその差額を免れることはもちろん、納税者が確定申告に際し、真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得の金額をことさらに過少にした内容虚偽の確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にしてその不足税額を免れる行為も含まれると解されている。

そして、原告らは、山村鉄夫及び山村一恵の指示に基づき入浴料収入の一部とともに雑収入の全部を除外したうえ、真実の営業状況を表し、雑収入の種類と金額の記載されている「収入メモ」及び右メモに添付されている真実の「リスト表」等を破棄又は書き換えするなど不正の操作を行つていたものであり、これら不正な行為に基づいて内容虚偽の確定申告書を提出し、もつて、正当な納税義務を過少にしてその不足額を免れていたものであるから、右事実が国税通則法六八条一項に該当することは自明である。

四  被告の主張に対する認否

1(一)  被告の主張1(一)の事実中、原告一福商事が昭和五一年九月期当時肩書地において「トルコ太閤」の名称で個室付浴場業を営んでいたこと、同原告が国税の課税標準等及び課税等の計算基礎となるべき事実(但し、雑収入関係を除く。)を隠ぺい又は仮装していたこと、被告が本件一の更正処分を行つたことは認め、その余は否認する。

(二)  同1(二)の冒頭事実中、推計課税の必要性は認め、その余は争う。

同1(二)(1)の事実中、申告所得金額が五九八万三五六八円であること、減算金額のうち、給料の金額が一三万一〇〇〇円であり、繰越欠損金の控除額が七一八万五八五九円であることは認め、その余は争う。

同1(二)(2)の事実中、原告一福商事の昭和五二年一月から同年九月までの久保木に対する支払総額が五八万五五〇〇円であること、タオルセツト一組のリース料が五五円であること、同原告の昭和五二年三月から同年六月までの間の雑収入が二一一万五七〇〇円、入浴料収入が三二七三万八〇〇〇円であること、同原告の申告に係る入浴料収入金額が五八〇六万五一一二円であること、同原告の帳簿に雑収入金額が四万六五五〇円と記載されていたことは認め、その余は否認する。

同1(二)(3)の事実中、〈2〉給料の金額及び〈3〉繰越欠損の控除額に関する各事実は認め、その余は否認する。

同1(二)(4)は争う。

(三)  被告の主張1(三)の事実中、原告一福商事が横浜商銀信用組合本店の架空名義普通預金口座に売上を預け入れていたこと、その金額が別表五1記載(但し、昭和五〇年一〇月ないし一二月、同年三、四月の各月分の記載を除く。)のとおりの預金額であること、同原告の昭和五二年三月から同年八月までの預金入金額、同年三月から同年九月までの入浴料収入金額、同年三月から同年六月までの雑収入金額がそれぞれ別表五2記載のとおりであることは認め、その余の事実は否認し、収入額の推計は争う。

なお、春日俊治(乙A第七号証の一ないし四)、野沢浩次(乙A第八号証の一ないし四)、辻川景一(乙A第九号証)、兒島佑二(乙A第一〇号証)、米津省三(乙A第一一号証)、有本和久(乙A第一二号証)、沼口荘一(乙A第一三号証の一ないし三)、吉本広介(乙A第一四号証の一ないし三)、小杉豊(乙A第一五号証の一、二)、澤山広久(乙A第一六号証の一、二)、川合友一(乙A第一七号証)、松山義孝(乙A第一八号証)、川端秀夫(乙A第一九号証)、井口貢(乙A第二〇号証)、吉井健一(乙A第二一号証の一、二)、柳川正樹(乙A第二二号証の一、二)が原告一福商事の架空預金の名義人であることは認める。

2(一)  被告の主張2(一)の事実中、原告横浜起業が昭和五一年二月期当時肩書地において「トルコ女子寮」の名称で個室付浴場業を営んでいたこと、同原告が国税の課税標準等及び税額等の計算基礎となるべき事実(但し、雑収入関係を除く。)を隠ぺい又は仮装していたこと、被告が本件二の更正処分を行つたことは認め、その余は否認する。

(二)  同2(二)の冒頭事実中、推計課税の必要性は認め、その余は争う。

同2(二)(1)の事実中、申告所得金額が九二四万五三七一円であること、減算金額のうち、給料の金額が四万八〇〇〇円であり、繰越欠損金の控除額が四六二万一〇四六円であることは認め、その余は争う。

同2(二)(2)の事実中、久保木の納品書控えによると、原告横浜起業が昭和五一年二月期において久保木から別表六記載のとおり一万一五七九組のタオルセツトの納品を受けたこと、同原告の申告に係る入浴料収入金額が四〇〇一万七〇〇〇円であること、同原告の帳簿に雑収入金額が二万七八八〇円と記帳されていたことは認め、その余は否認する。

同2(二)(3)の事実中、〈2〉給料の金額及び〈3〉繰越欠損の控除金額に関する各事実は認め、その余は否認する。

同2(二)(4)は争う。

(三)  被告の主張2(三)の事実中、原告横浜起業が横浜商銀信用組合本店の架空名義普通預金口座に売上を預け入れていたこと、その金額が別表一〇及び一一記載(但し、昭和五〇年一一月分及び昭和五二年四月分の記載を除く。)のとおりの預金額であることは認め、その余の事実は否認し、収入額の推計は争う。

なお、岡野利夫、(乙B第二九号証の一、二)、鈴木豊和(乙B第三〇号証の一、二)、大滝直次(乙B第三一号証)、浅沼靖(乙B第三二号証の一、二)、倉持正美(乙B第三三号証の一、二)、菊地良則(乙B第三四号証の一ない四)、飯島静夫(乙B第三五号証の一ないし四)、永友昭二(乙B第三六号証)、寺岡順一(乙B第三七号証の一、二)、廣川吉夫(乙B第三八号証の一、二)、染井孝夫(乙B第三九号証)、西源義(乙B第四〇号証の一、二)、平川清(乙B第四一号証の一、二)、萩野昇司(乙B第四二号証の一ないし三)、坂倉芳彦(乙B第四三号証の一ないし三)、田中光徳(乙B第四四号証の一、二)、原沢与一(乙B第四五号証の一、二)、塩田保(乙B第四六号証)、青山孝一(乙B第四七号証)、吉崎実(乙B第四八号証の一、二)、飯村俊一(乙B第四九号証の一、二)、高見修二(乙B第五〇号証の一、二)、宇佐見哲郎(乙B第五一号証の一、二)、井上芳久(乙B第五二号証)、渋沢慶子(乙B第五三号証)、小高孝(乙B第五四号証)、富坂正憲(乙B第五五号証)、成瀬秀伸(乙B第五六号証の一、二)、小野田克俊(乙B第五七号証の一、二)が原告横浜起業の架空預金の名義人であることは認める。

3(一)  被告の主張3(一)の事実中、原告横浜起業が昭和五三年二月期当時肩書地において「トルコ女子寮」の名称で個室付浴場業を営んでいたこと、同原告が国税の課税標準等及び税額等の計算基礎となるべき事実(但し、雑収入関係を除く。)を隠ぺい又は仮装していたこと、被告が本件三の更正処分を行つたことは認め、その余は否認する。

(二)  同3(二)の冒頭は争う。

同3(二)(1)の事実中、申告所得金額が二三三二万二一九三円であること、加算金額のうち事業税の認定損の過大否認額が八五万二三六〇円であること、減算金額のうち給料の金額が一七六万円であることは認め、その余は争う。

同3(二)(2)の事実中、原告横浜起業が申告した入浴料収入金額が六九〇四万一八一五円であること、同原告の帳簿に記載していた雑収入金額が四万八一五〇円であること、〈3〉事業税の認定損の過大否認額に関する事実は認め、その余は否認する。

同3(二)(3)の事実中、〈2〉給料の金額に関する事実は認め、その余は否認する。

同3(二)(4)は争う。

4  被告の主張4の事実中、原告らが入浴料収入の課税標準等及び税額等の計算基礎となるべき事実(但し、雑収入関係を除く。)を隠ぺい又は仮装していたことは認め、その余は争う。

なお、原告らは、雑収入の計上漏れについても課税標準等及び税額等の計算基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装したことを認めていたが、雑収入の計上漏れについては所得金額を隠ぺい又は仮装するような行為を行つていない旨に訂正する。

(被告は、原告らの右主張の変更が自白の撤回に当たるとして異議を述べた。)

5 被告の主張5は争う。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1ないし3の各事実(当事者、課税の経緯)は、当事者間に争いがない。

二  原告らの業務内容、営業形態、本件一ないし三の処分に至る経緯について判断する。

1  争いのない事実

(一)  原告一福商事が昭和五一年九月期当時横浜市中区福富町西通四五番地の二において「トルコ太閤」の名称で個室付浴場業を営み、国税の課税基準等及び税額等の計算基礎となるべき事実(但し、雑収入関係を除く。)を隠ぺい又は仮装していたこと(請求原因1、被告の主張1(一))

(二)  原告一福商事が昭和五一年九月期において売上金を横浜商銀信用組合本店の架空名義普通預金に預け入れていたこと(被告の主張1(三))

(三)  原告横浜起業が昭和五一年二月期及び昭和五三年二月期当時横浜市中区曙町一丁目五番地において「トルコ女子寮」の名称で個室付浴場業を営み、国税の課税基準等及び税額等の計算基礎となるべき事実(但し、雑収入関係を除く。)を隠ぺい又は仮装していたこと(請求原因1、被告の主張3(一)、4(一))

2  右争いのない事実に加えて、<証拠略>によれば、以下の事実が認められる。

(一)  山村鉄夫は、昭和四四年ころから個室付浴場業を始め、昭和五〇年一〇月当時九店舗において営業していたものの、売春防止法等により検挙された場合に責任が自己に及ぶことをおそれて、山村関連会社が個室付浴場を経営している形態をとり、店長等を当該法人の取締役に就任させ、山村鉄夫自身は取締役等に就任しなかつた。

すなわち、原告一福商事が肩書地に「トルコ太閤」、原告横浜起業が肩書地に「トルコ女子寮」、楠本観光有限会社が東京都内に「ニユークイン」、光陽商事有限会社が東京都内に「桃山」、瀬戸観光有限会社が松山市内に「東京」、松山観光有限会社が松山市内に「大奥」、有限会社福岡城が北九州市内に「福岡城」、西日本起業有限会社が北九州市内に「徳川」、大栄観光株式会社が広島市内に「石庭」という名称の店舗を開設して個室付浴場業をそれぞれ営んでいた。

原告一福商事は、昭和四八年二月八日、ホテル、浴場の経営等を目的に資本金三五〇万円で設立された有限会社であり(<証拠略>)、また、原告横浜起業は、昭和四六年二月四日に特殊公衆浴場業等を目的に資本金一〇〇万円で設立された有限会社である。

(二)  山村鉄夫は、浴場業を始めた当初から売上金額を過少に申告して税負担を免れようとし、実際の入浴料収入金額及び雑収入金額から一部除外して帳簿に記載し、また、タオルセツトの使用数量から実際の収入金額が把握されるのをおそれて、必要経費のうちタオルセツトのリース代金又はクリーニング代金を過少に申告する等の隠ぺい及び仮装工作を行つていた。

山村鉄夫は、各店のレジ係(経理担当者)をして、入浴客があると入浴料を徴収すると共に入店時間を打刻した入浴券を渡し、入浴客が帰る際に入浴券をホステスから回収させ、またホステス名ごとに入浴時間を記載し、かつ、収入金額を記載したリスト表を作成させ、入浴券、リスト表及び収入金を毎日又は二、三日おきに指定した場所に郵送させた。そして、山村鉄夫は妻であつた山村一恵をして、郵送された入浴券の記載からリスト表を点検して右記載の収入金額を確認したうえ、集計表を作成して九店舗の売上金額を把握していたが、税負担を免れる目的で、売上金額を一部除外したリスト表及び現金出納帳を作り換えさせ、郵送された入浴券及びリスト表を破棄させていた。

また、山村鉄夫は、経費についても、使用タオルセツト及びシーツ数量により収入が把握されないようにするため、クリーニング業者及びリース業者をして、実際に納入した数量を、公表すべき数量と帳簿に記載しないで秘匿する数量に分け、公表する数量についてのみ請求書を出させ、支払いについても領収書を公表分と非公表分に分けて発行させていた。

(三)  山村鉄夫は、各店から送金させた入浴料収入及び雑収入を自己の賃貸料収入や山村一恵の給料、役員報酬等と一体のものとして、生活費及び株式売買資金等に当てていた。

山村一恵は、山村関連会社の経理事務及びリスト表の書換え等の脱税工作をしていたが、山村鉄夫が脱税工作や株式投資に没頭して妻である山村一恵の話に耳をかたむけないため、昭和五一年暮れころには夫婦仲が悪くなつて離婚話まで出るようになり、山村鉄夫の指示に反して、山村関連会社の実際の収入金額を記載した集計表をメモしていた(<証拠略>)。

山村鉄夫及び山村関連会社は、昭和五三年六月初め東京国税局査察官から所得税法及び法人税法違反嫌疑で調査され、昭和五四年三月末東京地方検察庁の検察官に告発され、また、同検察官から法人税違反の嫌疑で起訴され、昭和五五年三月二六日有罪判決(<証拠略>)を受けた。

被告は、原告らが多額の売上除外の経理操作を行つていたところから、原告らの収入を推計したうえで本件一ないし三の処分を行つた。

以上のとおりであつて、この認定に反する証拠はない。

3  右事実によれば、原告らの収入金額を推計して課税する必要があつたものというべきである(推計課税の必要性があつたことは原告らも争わないところである。)。

三  推計課税の合理性について判断する。

1  被告は、原告一福商事の昭和五一年九月期の収入金額及び原告横浜起業の昭和五一年二月期の収入金額について、比較対象期間のタオルセツト一組当たりの収入金額を算定し、これに右各期の使用タオルセツト数量を乗じて推計しているので、右推計方法の当否について検討する。

(一)  争いのない事実

(1) タオルセツト一組のリース料金が五五円であること、原告一福商事の昭和五一年九月期における申告所得が五九八万三五六八円であること(原告の主張1(二)(1))

(2) 原告一福商事の昭和五二年三月から同年六月までの間における雑収入が二一一万五七〇〇円、入浴料収入が三二七三万八〇〇〇円であること(被告の主張1(二)(2))

(3) 原告一福商事が昭和五二年一月から同年九月までに久保木に対して五八万五五〇〇円を支払つたこと(被告の主張1(二)(2))

(4) 同原告が昭和五一年九月期の入浴料収入を五八〇六万五一一二円と申告し、同期における雑収入を四万六五五〇円と帳簿に記載していたこと(被告の主張1(二)(2))

(5) 同原告が横浜商銀信用組合本店の架空名義普通預金口座に売上金を預け入れており、その入金額が別表五1記載(但し、昭和五〇年一〇月ないし同年一二月及び昭和五一年三、四月の各記載は除く。)のとおりであり、また、同原告の昭和五二年三月から同年八月までの預金入金額、同年三月から同年九月までの実際の入浴料収入金額、同年三月から同年六月までの雑収入金額がそれぞれ別表五2記載のとおりであること(被告の主張1(三))

(6) 原告横浜起業が昭和五一年二月期の所得金額を九二四万五三七一円と申告していたこと(被告の主張2(二)(1))

(7) 同原告が昭和五一年二月期において久保木から一万一五七九組のタオルセツトの納品を受けていたと公表していたこと(被告の主張2(二)(2))

(8) 同原告が昭和五一年二月期において入浴料収入を四〇〇一万七〇〇〇円と申告し、雑収入を二万七八八〇円と帳簿に記帳していたこと(被告の主張2(二)(2))

(9) 同原告が横浜商銀信用組合本店の架空名義普通預金口座に売上金を預け入れており、その金額が別表一〇及び一一記載(但し、昭和五〇年一一月及び昭和五一年四月の各記載は除く。)のとおりであつたこと(被告の主張2(三))

(10) 同原告が昭和五三年二月期の所得金額を二三三二万二一九三円と申告していたこと(被告の主張3(二)(1))

(11) 同原告が昭和五三年二月期の入浴料収入を六九〇四万一八一五円と申告し、同期の雑収入を帳簿に四万八一五〇円と記帳していたこと(被告の主張3(二)(2))

(12) 同原告が昭和五三年二月期において事業税の認定損として五六九万八三二〇円を損金に算入していたが、被告の昭和五二年二月期の減額更正処分により事業税の認定損が八五万二三六〇円減額になつたこと(被告の主張3(二)(2))

(二)  右争いのない事実に加えて、<証拠略>によれば、次のように認められる。

(1) 原告らは、東京都葛飾区立石二丁目八番七号所在の司商会こと久保木から貸タオルセツト及び貸シーツの供給を受けていたが、久保木から納入されるタオルセツトは、バスタオル二枚、小タオル二枚で一組となつていて一組当たりのリース料金が五五円であり、シーツは一枚当たり五〇円であつた。

原告らの営む個室付浴場業においては、入浴客が必ずタオルセツトを使用する仕組みになつており、山村鉄夫は、タオルセツトの使用数量が入浴客数に比例し、タオルセツト使用数量を把握されると入浴料収入を一部除外して帳簿に記帳している事実が判明すると考え、タオルセツト及びシーツのリース業者である久保木に対し、シーツのリース料については金額請求させて公表していたものの、タオルセツトについては納入数を一部除外した請求書を作成させ、領収書についても、請求書のある分とない分とに分けて発行していた。

(2) 原告一福商事は、昭和五〇年一〇月ころ、肩書地において「トルコ太閤」の名称(昭和五一年一一月から「トルコ花嫁塾」と名称を変えた。)で個室付浴場業を開業したが、その入浴料金は、昭和五二年春ころまで、九〇分で七〇〇〇円、三〇分を延長するごとに二〇〇〇円の延長料を徴収しており、昭和五二年春以降は六〇分で四〇〇〇円(但し、午後七時までサービスタイムとして、六〇分で一〇〇〇円であつた。)、延長料金は三〇分で二〇〇〇円を徴収していた<証拠略>。

(3) 使用タオルセツト数に基づく推計方法によると、原告一福商事の昭和五一年九月期における入浴料収入は次のとおりとなる。

〈1〉 原告一福商事は、昭和五二年三月から同年八月までの間において、別表四記載のとおり、合計六七二〇組のタオルセツトを使用したと公表した(<証拠略>)が、その数量は実際の使用数量の半分であつた。したがつて実際の使用数量は一万三四四〇組であつた。

〈2〉 原告一福商事の右期間における実際の入浴料収入及びその間の使用タオルセツト数量との比率(タオルセツト一組当たりの入浴料収入)は、次のとおりとなる(上段が入浴料収入、下段が一組当たりの入浴料収入)。

昭和五二年三月  八〇一万六〇〇〇円 四一三一・九五円

同   年四月  七四六万六〇〇〇円 四一〇二・九七円

同   年五月  七八三万二〇〇〇円 四一二二・一〇円

同   年六月  九四二万四〇〇〇円 四二四五・〇四円

同   年七月 一二〇一万四〇〇〇円 四〇三一・五四円

同   年八月  八八二万四〇〇〇円 三四二〇・一五円

合計      五三五七万六〇〇〇円 三九八六・三〇円

〈3〉 原告一福商事の昭和五一年九月期における使用タオルセツト数を確定する資料はないものの、同原告がシーツ及びタオルセツトのリース代金を衛生費として公表した金額が明らかであるから、昭和五二年一月から同年九月分までのシーツ及びタオルセツトの各リース料金の内訳が公表されている時期について、同原告が公表した衛生費金額に対するタオルセツトのリース代金の比率を求め、これを昭和五一年九月期の公表された衛生費総額に乗じ、さらにタオルセツト一組当たりのリース代金で除してタオルセツト数量を推算することができる。

原告一福商事は、昭和五二年一月から同年九月までの間、別表二記載(但し、毎月二五日締めで算定している。)のとおり、タオルセツト及びシーツのリース料金を支払つたと公表しており、公表された衛生費金額に対するタオルセツトのリース代金の比率は、同表記載のとおり七七・七八パーセントとなる。

そこで、原告一福商事が公表している昭和五一年九月期の衛生費金額(タオルセツト及びシーツのリース代金)に、衛生費金額に対するタオルセツト代金の比率を乗じ、その金額をタオルセツト一組当たりの代金五五円で除して使用タオルセツト数を算定すると、別表三記載のとおり、合計一万〇六七九組となる(原告一福商事は、昭和五一年八月一六日から同年一一月一三日まで売春防止法違反により営業停止処分を受けて休業していたから、同年九月分の衛生費として計上していたタオルセツトリース代金二万四二〇〇円〔<証拠略>〕は同年八月分とみるべきである。)。

しかしながら、原告一福商事が公表している衛生費金額は、実際に支払つた金額のほぼ半額に圧縮されていた(但し、昭和五一年八月分については個々未公表分のタオルセツトリース代金二万四二〇〇円が計上されているため全額が公表される結果となつている。)別表三記載の各月のタオルセツト数量のうち昭和五一年八月分を除いたタオルセツト数を二倍にした数量に昭和五一年八月分の数量を加えた二万〇四六九組が実際の使用タオルセツト数となる。

〈4〉 以上により、右使用タオルセツト数量に基づいて推計すると、原告一福商事の昭和五一年九月期における入浴料収入は、次のとおり、八一五九万五七六九円となる。

53,576,000円/13,440(組)×20,469(組)=81,595,769円

(4) 原告一福商事は、昭和五一年九月期において、ホステスから飲食の有無を問わずに入浴客一人当たり一〇〇円のコーラ代金を、ホステス一人当たり五〇〇円のタオル代金を徴収し雑収入として処理していたが、右コーラ代金及びタオル代金の総額を認定する資料はない。

そこで、入浴料収入金額と雑収入金額の各実額が判明する昭和五二年三月から同年六月までの期間における入浴料金額に対する雑収入金額の比率に従つて雑収入を推計すると、昭和五二年三月から同年六月までの雑収入は二一一万五七〇〇円であり、その期間の入浴料収入は三二七三万八〇〇〇円であるから、右期間における入浴料金額に対する雑収入金額の比率を昭和五一年九月期における入浴料収入に乗じて同期における雑収入を推計すると、次のとおり、五二七万三一四三円となる。

81,595,769円× 2,115,700(円)/32,738,000(円)=5,273,143円

(5) 原告一福商事は、売上金から店舗で支払う経費分を除いて横浜商銀本店の架空名義普通預金口座に入金していたものの、山村鉄夫が同原告の店舗を訪れて売上金を自ら持ち去つたこともあり、売上金額から小口経費を除いた残金全額が入金されていたわけではないが、昭和五一年九月期の預金額は昭和五〇年一〇月分を除き別表五1記載のとおりとなる(昭和五〇年一一、一二月及び昭和五一年三、四月以外の各月については別表五1記載の金額であることについては争いがない。<証拠略>)。

なお、被告は、昭和五〇年一〇月分について、預金額が合計二二八万四八〇〇円である(<証拠略>)が、申告所得金額が四一五万三〇〇〇円であり(<証拠略>)、売上金額を一部除外した申告金額よりも預金額が過少であるので、右申告金額を同月分の収入とした。

原告一福商事の架空名義普通預金への入金状況に関して、実際の売上金額が明らかである時期についてみると、別表五2記載のとおり、昭和五二年三月から同年九月までの間に六一二〇万〇七六五円を右普通預金に入金している(昭和五二年三月から同年八月分までの入金額については別表五2記載のとおりであることに争いがない。<証拠略>)のに対し、実際の売上金額は六三〇四万四二〇〇円(但し、雑収入については、昭和五二年七月から同年九月までは別表五2下段記載のように推計したものである。)となり、預金入金額は実際の売上金額の約九七パーセントに相当し、預金額が即ち実際の売上金額を示すものではないことが窺われる。

(6) 原告横浜起業は、肩書地において「トルコ女子寮」の名称で個室付浴場業を営んでいたが、その料金は、昭和五〇年五月までは六〇分で四〇〇〇円、二〇分延長するごとに二〇〇〇円であつたが、同年六月以降は六〇分で三〇〇〇円、二〇分延長するごとに二〇〇〇円であり、また、同年一一月以降は午後三時から午後七時までを、サービスタイムとして六〇分一〇〇〇円の入浴料金とし、さらに、招待券を有する入浴客には入浴料を無料としていたところ、招待券によつて入浴した客については、ホステスから入浴料を徴収しており(リスト表から入浴料金を算定した<証拠略>)、昭和五一年二月期において招待券により入浴した客があつたが、昭和五三年二月期には招待券で入浴した客はなかつた。

また、原告横浜起業は、雑収入として、コーラ代の名目で、飲食の有無を問わずに入浴客一人当たり一〇〇円をタオル代の名目で、ホステス一人当たり三〇〇円、入浴客一人当たり一〇〇円をそれぞれホステスから徴収していた。

(7) 原告横浜起業の昭和五一年二月期の収入金額については、実際の金額を確定する資料がなく、使用タオルセツト数に基づく推計方法により、同原告の昭和五一年二月期における総収入を推計すると次のとおりとなる。

〈1〉 原告横浜起業の昭和五三年二月期の入浴料収入は、合計七五六〇万一〇〇〇円であり(<証拠略>)、また、雑収入は、別表一二1記載のとおり四一一万七七九〇円である(<証拠略>)。

〈2〉 原告横浜起業は、昭和五三年三月から同年九月まで及び同年一二月から昭和五三年二月までの間において、別表九記載のとおりのタオルセツト数量を使用したと公表している(<証拠略>)が、その数量は実際の使用数量の半分であつた。

また、原告横浜起業は、昭和五二年一〇月及び同年一一月の使用したタオルセツト数量を明確にしていない(<証拠略>、但し、同年一〇月一日から同月一八日まではタオルセツトを五五〇組、シーツを一八五枚それぞれ使用したと公表していた。)ため、昭和五三年二月期のうち右二箇月分を除くその余の期間における衛生費のうちタオルセツトのリース料金の比率を求めると別表八記載のとおり七九・一一パーセントとなる。同原告は、毎月二五日までのリース代金を翌月一五日以降に支払うことになつていたが、昭和五二年一一月から毎月末日までのリース代金を翌月一五日以降に支払うようになつた。そして、同原告の昭和五二年九月二六日から同年一〇月二五日までの公表した衛生費は六万五八〇〇円であり(<証拠略>、同年九月二六日から同月三〇日までにタオルセツトを一六〇組、シーツを五三枚、同年一〇月一日から同月一八日までにタオルセツトを五五〇組、シーツを一八五枚それぞれ使用している。<証拠略>)、同年一〇月二六日から同月三一日までが一万四三五〇円であり(<証拠略>)、同年一一月一日から同月末までが七万五三五〇円であつた(<証拠略>)。

そうすると、原告横浜起業の昭和五二年一〇月分及び同年一一月分の使用タオルセツト数は、別表九備考欄記載のとおり、同年一〇月が九六九組、同年一一月が一〇八三組となる。

しかしながら、原告横浜起業は実際に使用したタオルセツト数量の半分しか公表せず、かつ、その分の請求書及び領収書しか公表していないから、同原告が昭和五三年二月期において実際に使用したタオルセツト数は、別表九記載の一万三〇七二組を二倍にした二万六一四四組となる。

〈3〉 原告横浜起業は、昭和五一年二月期において、久保木から一万一五七九組のタオルセツトを納品されていたのであるが、右数量は実際の納品数量の半分であつたから、実際に使用したタオルセツト数量は二万三一五八組となる。

〈4〉 以上により、原告横浜起業の昭和五一年二月期における総収入を推計すると、次のとおり、七〇六一万三八二一円となる。

79,718,790円/26,144(組)×23,158(組)=70,613,821円

(8) 原告横浜起業は、売上金を横浜商銀信用組合本店の架空名義普通預金口座に入金しており、その昭和五一年二月期の預金額は六六九九万四二一七円である(昭和五〇年一一月分以外の預金額は別表一〇記載のとおりであることに争いがない。<証拠略>)。

なお、原告横浜起業の昭和五三年二月期における預金額は別表一一記載のとおり五七五四万五三八六円である(昭和五二年四月分以外の預金額は別表一一記載のとおりであることに争いがない。<証拠略>)が、これに対して、実際の収入金額を記載した山村メモ(<証拠略>)によれば、前記のとおり、七九七一万八七九〇円であつて、右預金額の総収入よりも二七・九パーセント過少である。

以上のとおりであつて、これに反する証拠は次に判示するとおり信用できない。

(一)  <証拠略>(東京地方裁判所昭和五七年(行ウ)第一九三号事件〔以下「別件事件」という。〕における証人山村一恵の尋問調書)の記載中には、山村一恵が使用タオルセツト数量のうち、簿外割合を当初において半分にしていたが、昭和五二年前半から簿外割合を減らしていた旨の記載部分があり、また、<証拠略>(本件刑事事件における山村一恵の検察官に対する供述調書)の記載中にも同旨の記載部分があり、さらに、<証拠略>(別件事件における証人山村鉄夫の尋問調書)の記載中には、昭和五一年ころまでは、使用タオルセツトの簿外割合が半分であつたが、その後は三分の一にし、普段以上に売上が上がる時期については三分の二にした旨の記載部分がある。

しかし、前記認定のとおり、原告一福商事が昭和五一年八月分の衛生費として支払つたと公表した金額は三万一七〇〇円である(<証拠略>)ところ、右金額にタオルセツトのリース料金の比率七七・七八パーセントを乗じて算出した金額は二万四六五六円となるのに対し、簿外のタオルセツトリース料金は二万四二〇〇円である(<証拠略>)から、ほぼ簿外割合が二分の一になつているのであり、また、<証拠略>によれば、原告横浜起業が昭和五二年一二月一日から同月三一日までの間において、実際に納品を受けたタオルセツト数、帳簿に記載したタオルセツト数及び簿外にしたタオルセツト数は、別表七の「実際数量」、「表分数量」及び「裏分数量」の各個記載のとおりであると認められ、各日毎の簿外割合は売上の多い日に高く売上の少い日にはその逆に低くなつているものの、同月分全体としてみたときの簿外割合は五七・八一パーセントに及んでおり、さらに、<証拠略>によれば、久保木は、大藤事務官に事情聴取に際して、昭和五二年ころ、簿外割合を二分の一として取引していた旨供述していることが認められ、これらの事情を考慮すると、売上との関係で日毎の簿外割合に変動はあつたものの、月単位でみるときには、おおむね二分の一ないしそれを上回るものが簿外として処理されていたものと認められるのであつて、右各尋問調書中の記載部分は信用し難い。

しかも、右各記載部分は、山村関連会社九社について供述している内容であり、具体的に原告らについてのタオルセツトの簿外割合について供述した内容ではないうえ、その内容が曖昧で裏付けとなるべき証拠もないから、原告らに関する事実の認定を左右するに足りる証拠とはなし難い。簿外割合を変更することが納入業者に多大な影響を与えることを考慮すると、簿外割合を再三変更することは困難であつたと考えられるから、簿外割合をほぼ二分の一と認定することは前記の事情からして相当である。

(二)  <証拠略>(銀杏田和晴作成の報告書)の記載中には、コーラ代、タオル代等の雑収入は、ホステスの交通費、ミーテイング費用等に充てられて店の収入にならない旨の記載部分があり、また、<証拠略>(別件事件における証人山村鉄夫の尋問調書)の記載中には、コーラ代又はタオル代等の雑収入は、店の責任者が副収入として取得していた旨の記載部分があるが、<証拠略>によれば、コーラ代及びタオル代等の雑収入についても入浴料収入と同様に横浜商銀信用組合本店に預け入れたり、又は小口経費の支払いに充てていたことが認められるうえ、<証拠略>によれば、山村一恵は、原告らのレジ係から雑収入金額も報告させていたことが認められるのであつて、右各事実に照らすと右各書証の記載を信用することはできない。

他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  タオルセツト数量に基づく推計の合理性について判断する。

(一)  タオルセツト数量と収入との比例関係の有無

前記二1認定のとおり、原告らの営む個室付浴場業では、入浴客が必ずタオルを使用するのであり、しかも、入浴客がタオルを持参することが考えられない仕組みとなつているのであるから、入浴客の数と使用タオルセツト数量は比例関係にあるというべきである。

原告らは、入浴客一人当たりのタオルセツト使用数量がホステス分を含めると二組以上になること等を理由にして、入浴客と使用タオルセツト数量との間に比例関係がない旨主張し、<証拠略>には、タオルセツトの使用状況は、ホステスや各店の責任者の使用方法によつて異なつており、入浴客の増加に従つて使用タオルセツト数が比例的に増加するものとはいえない旨の記載部分がある。

しかし、前記認定のタオルセツト数量から収入金額を推計する方法は、比較対象期間のタオルセツト一組当たりの収入金額を算出し、これを基に推計対象期間の使用タオルセツト数に乗じて収入金額を算出するのであるから、入浴客一人当たり一組以上のタオルセツトを使用するか否かは、何んら、右推計の基礎となつているものではないし、仮に、ホステス分を含めると入浴客一人当たり二組以上のタオルセツトを使用するとしても、右推計方法の合理性を害うものではなく、しかも<証拠略>によれば、山村鉄夫は検察官に対して、入浴客数と使用タオルセツト数が比例しているため、売上金額を除外していることが発覚しないように使用タオルセツトのリース料金を一部簿外にしており、入浴料収入金額を認定するには使用タオルセツト数量に基づいて推計するのが一番良い方法である旨供述し、山村一恵も検察官に対して、タオルのクリーニング代金をすべて公表すると実際の収入金額を把握する手がかりを与えてしまうため、クリーニング代金の一部を簿外にしていた旨供述しているのであつて、前記の各記載部分は採用し難い。

また、前記三1(二)認定のとおり、バスタオル二枚と小タオル二枚からタオルセツト一組ができていたことを考慮すると、右は入浴客一人当たりに通常必要とされるタオルをひとまとめにしたもので入浴客一人当たり数組以上のタオルセツトを頻繁に使用し、あるいはタオルセツトの使用状況がホステス及び店の責任者によつて大きく異なるというようなことは考えにくいうえ、時折タオルを余計に使用することがあるとしても、半年又は一年の期間をとつて一組当たりのタオルセツトの収入金額を算出すれば、タオルセツト一組当たりのほぼ平均的な金額が算出できると考えられ、比較対象期間と推計対象期間の各タオルセツト使用状況が著しく異なつていたとする証拠はなく、具体的に特定のホステス又は責任者が多数のタオルセツトを使用又は使用させていたとする証拠もない。

もつとも、前記三1(二)(3)認定のとおり、原告一福商事の昭和五二年三月から同年八月までのタオルセツト一組当たりの入浴料収入は、同年六月が四二四五・〇五円であるのに対して同年八月が三四二〇・一五円となつており、約八〇〇円の相違があるが、右相違は、前記三1(二)(2)認定のとおり、原告一福商事が昭和五二年春から入浴料金体系を変更し、九〇分で七〇〇〇円であつた入浴料金を六〇分で四〇〇〇円に下げ、かつ、サービスタイム制度を設けて特定時間内の入浴料金を六〇分で一〇〇〇円としたことから生じたものというべきであり、タオルセツトの使用状況の変化に伴つて生じたものとはいえない。

(二)  比較対象期間と推計対象期間の比較

(1) 原告一福商事

前記三1(二)認定のとおり、原告一福商事は、昭和五二年春ころまでは入浴料金を九〇分で七〇〇〇円としていたが、同時期以降は六〇分で四〇〇〇円としたうえ、サービスタイム制度を導入して一定の時間内の入浴料金を六〇分一〇〇〇円と値段を下げており(延長料金は右時期によつて相違がない。)、比較対象期間である昭和五二年三月から同年八月までの入浴料金は、推計対象期間である昭和五一年九月期より低額であつたから、比較対象期間におけるタオルセツト一組当たりの入浴料収入は推計対象期間の金額に比較して低く算出されることになる。

したがつて、比較対象期間と推計対象期間の各料金制度を考慮すると、原告一福商事に有利な推計であつて不利益を及ぼすものとはいえず、右推計は相当な合理性を有するものである。

(2) 原告横浜起業

前記三1(二)認定のとおり、原告横浜起業は、昭和五〇年五月までは入浴料金を六〇分で四〇〇〇円としていたが、同年六月から六〇分で三〇〇〇円に変更したうえ、同年一一月からサービスタイム制度を導入して一定の時間内は入浴料金を六〇分一〇〇〇円としており(延長料金には相違がない。)、比較対象期間である昭和五三年二月期の入浴料金は、推計対象期間である昭和五一年二月期と比較して低額なものであつたから、比較対象期間におけるタオルセツト一組当たりの入浴料収入は推計対象期間の金額に比較して低く算出されることになる。

なお、推計対象期間中に招待券により無料で入浴した客があつたことは前記三1(二)認定のとおりであるが、招待券による入浴客については、ホステスから入浴料を徴収していたのである(<証拠略>)から、比較対象期間のタオルセツト一組当たりの入浴料収入が推計対象期間の金額より低額であることに変りはない。

以上のとおりであつて、比較対象期間と推計対象期間の各料金制度を考慮すると、原告横浜起業に不利な推計であるとはいえず、相当な合理性を有する。

(3) 原告らは、被告がタオルセツトの使用数量を認定する際に在庫数量を考慮にいれていないから不合理な推計である旨主張するが、<証拠略>によれば、久保木は、原告らの各店舗にタオルセツトをほぼ毎日納入しており、各店舗の在庫数量が概ね常時一〇〇組程度となるように納品していたことが認められ、原告らのタオルセツトの在庫数は本件の推計課税にかかる各事業年度の期首と期末においていずれも一〇〇組で変化はなかつたと認められるから、在庫数量を考慮に入れることなく使用タオルセツト数を納品数量によつて認定したことに不合理な点はない。

(4) 加えて、原告らのタオルセツトの使用方法及びタオルセツトの組合わせに比較対象期間と推計対象期間において変化があつたと認めるに足りる証拠はなく、その他前記認定の推計方法の合理性を疑わせるに足りる証拠はない。

(三)  以上判示したとおり、タオルセツト数量に基づき原告一福商事の昭和五一年九月期及び原告横浜起業の昭和五一年二月期における収入を推計したことに不合理な点はない。

3  預金額に基づく推計の合理性について判断する。

(一)  前記三2(二)認定のとおり、原告らは、売上金から店で支払う経費分を除いた残額を横浜商銀信用組合本店の仮名普通預金口座に入金しており、しかも、その預金額は、実際の収入金額が把握できる原告一福商事の昭和五二年三月から同年九月までの収入金額より約三パーセント少なく、また、原告横浜起業の昭和五三年二月期の実際の収入金額より二七・九パーセント少ない額になつているのであるからその預金額から売上金額を推計することは、原告らに不利益な推計とはならないものであり、合理的なものということができる。

なお、原告一福商事の昭和五〇年一〇月分の収入については、預金額ではなく、同原告が申告した金額(<証拠略>)としているのであるが、それは前記二2(二)認定のとおり、同月分に限り、同原告が売上金の一部を除外して記帳した総勘定元帳の記載金額より更に預金額が過少であり、同月分の預金額が同月の売上金額から大きく乖離していると認められたからであつて、同原告に不利な推計をしたものではない。

(二)  原告らは、預金口座開設時の預金は、口座開設の直前に解約された仮名預金のうちから入金されたもので、売上金を入金したのではないにもかかわらず、これを含めた全部が売上金を原資とする預金であるとして推計しているのは不合理である旨主張する。

(1) まず、原告らの仮名による普通預金口座の開設及び解約の状況についてみるに、<証拠略>によれば、次のとおり認められる。

(イ) 原告一福商事関係

年月日     名義   新規入金額(円) 解約払戻金額(円)

昭和五〇・一〇・ 七 春日俊治     二〇〇〇

五一・ 三・ 一 右同             四二四万七四八四

五〇・一〇・ 七 野沢浩次     二〇〇〇

五一・ 三・ 一 右同             三八一万〇八八一

五一・ 三・ 二 辻川景一  二四万〇〇〇〇

五一・ 四・ 六 右同              九五万七八二九

五一・ 三・ 二 兒島佑二     七〇〇〇

五一・ 四・ 二 右同             一九六万一〇三四

五一・ 四・ 二 米津省三     一〇〇〇

五一・ 五・一四 右同                 九〇一九

五一・ 四・ 六 有本和久  五〇万〇〇〇〇

五一・ 五・一九 右同              五七万八〇〇〇

五一・ 五・一五 沼口荘一     五〇〇〇

五一・ 八・一六 右同             一〇一万一〇一九

五一・ 五・一九 吉本広介   一万〇〇〇〇

五一・ 八・一二 右同             一一八万六三七九

五一・ 八・一二 小杉豊  一〇〇万〇〇〇〇

五二・ 四・ 一 右同             一〇二万一四七〇

五一・ 八・一七 澤山広久 一〇〇万〇〇〇〇

五二・ 四・ 一 右同             一四九万七二二六

五二・ 四・ 四 川合友一      三〇〇

五二・ 五・一九 右同              九〇万七六〇三

五二・ 四・ 五 松山義孝      五〇〇

五二・ 五・二〇 右同             二〇六万〇七九五

五二・ 五・一九 川端秀夫   一万〇〇〇〇

五二・ 七・二二 右同              九四万〇七二七

五二・ 五・二〇 井口貢   二〇万〇〇〇〇

五二・ 七・ 六 右同             一九一万一六一〇

五二・ 七・ 六 吉井健一 一〇〇万〇〇〇〇

五二・ 九・二一 右同              二九万一二〇二

五二・ 七・ 七 柳川正樹 一〇〇万〇〇〇〇

五二・ 九・一九 右同              七七万六六三三

(ロ) 原告横浜起業関係

年月日     名義   新規入金額(円) 解約払戻金額(円)

昭和五〇・ 一・三一 岡野利夫     一〇〇〇

五〇・ 四・一二 右同             一二一万四〇八三

五〇・ 四・一四 鈴木豊和     一〇〇〇

五〇・ 七・ 三 右同             二六七万〇八一四

五〇・ 六・二七 大滝直次  五六万六八〇〇

五〇・ 八・ 一 右同              一七万三四二二

五〇・ 八・ 六 浅沼靖   一六万〇〇〇〇

五〇・一〇・ 一 右同               五万一三〇〇

五〇・ 八・ 六 倉持正美  一七万九四二二

五〇・一〇・ 一 右同               五万九二七二

五〇・一〇・ 三 菊地良則  四〇万二〇八一

五一・ 二・二七 右同             三二二万二三六三

五〇・一〇・ 三 飯島静夫  二〇万〇〇〇〇

五一・ 二・二五 右同             四八八万三八一六

五一・ 二・二七 永友昭二   八万〇〇〇〇

五一・ 四・ 二 右同             二三九万六九九一

五一・ 二・二八 寺岡順一     一〇〇〇

五一・ 四・ 三 右同              一八万六二八〇

五一・ 四・ 二 廣川吉夫  一五万七八九一

五一・ 五・二六 右同              八一万〇九六〇

五一・ 四・ 五 染井孝夫  一五万〇〇〇〇

五一・ 五・一五 右同                 八四五五

五一・ 五・一七 西源義      五〇〇〇

五一・ 八・ 二 右同             二九九万五六八〇

五一・ 五・二六 平川清   一〇万〇〇〇〇

五一・ 八・ 三 右同              三〇万三二八二

五一・ 八・ 三 荻野昇司  二〇万〇〇〇〇

五一・一二・二四 右同              五〇万八九九四

五一・ 八・ 四 坂倉芳彦  五〇万〇〇〇〇

五一・一二・二四 右同              三一万七二八三

五一・一二・二四 田中光徳  五〇万〇〇〇〇

五二・ 四・ 一 右同              六二万〇八三八

五一・一二・二四 原沢与一  三〇万〇〇〇〇

五二・ 四・ 一 右同              七三万四八一六

五二・ 四・ 二 塩田保      一〇〇〇

五二・ 五・一八 右同             一一八万五七一八

五二・ 四・ 二 青山孝一      五〇〇

五二・ 五・一八 右同              八三万二八二一

五二・ 五・一八 吉崎実  一〇〇万〇〇〇〇

五二・ 七・ 七 右同             一五九万七二三七

五二・ 五・一九 飯村俊一  二〇万〇〇〇〇

五二・ 七・ 四 右同             二六一万三四八五

五二・ 七・ 五 高見修二  五〇万〇〇〇〇

五二・ 九・一九 右同              二八万八九四五

五二・ 七・ 七 宇佐見哲郎 八〇万〇〇〇〇

五二・一〇・ 一 右同             二一七万〇四一八

五二・一〇・三一 井上芳久 一〇九万八二九〇

五三・ 一・ 七 右同             二五七万七九二一

五二・一二・ 九 渋沢慶子  三二万三四二〇

五三・ 一・ 七 右同             二七一万一七九〇

五三・ 一・ 七 小高孝      一〇〇〇

五三・ 一・二八 右同              九四万六七八八

五三・ 一・ 七 富坂正憲     一〇〇〇

五三・ 一・二六 右同              六〇万〇三六一

五三・ 一・二六 成瀬秀伸  五〇万〇〇〇〇

五三・ 四・ 六 右同              九三万三九九八

五三・ 一・二八 小野田克俊 五〇万〇〇〇〇

五三・ 四・ 六 右同              八四万四一八四

(2) そこで右預金状況によつて検討するに、原告一福商事に関する昭和五一年八月一二日開設された小杉豊名義の預金、同月一七日開設された澤山広久名義の預金、昭和五二年七月六日に開設された吉井健一名義の預金各一〇〇万円、原告横浜起業に関する同年五月一八日に開設された吉崎実名義の預金一〇〇万円が、小杉豊名義の預金においては、預金と同じ日に解約により払い戻された吉本広介名義の預金一一八万六三七九円と、澤山広久名義の預金においては、預金の前日に解約により払い戻された沼口荘一名義の預金一〇一万一〇一九円と、吉井健一名義の預金においては、預金と同じ日に解約により払い戻された井口貢名義の預金一九一万一六一〇円と、吉崎実名義の預金においては預金と同じ日に解約により払い戻された塩田保名義の預金一一八万五七一八円と、それぞれ、払い戻しと預金との間において時間的に接着し、金額的にも払い戻しを受けた金額の範囲内にあり、かつ、金額が近似し、あるいは著しい違いがない点に照らし、関連性を窺わせるものということができる。そして、右新規預金の預金額が、いずれも一〇〇万円以上の大きな金額で、本件証拠に現れた原告らの預金全体を通じてみても一回の預金がこのような大きな金額になつていることは多く見られないことをも合わせて判断すると、右新規預金は、既存の預金を解約して得た払い戻し金によつてなされたものと認める余地が十分にあり、これをもつて、原告らの売上金算定の金額に加えることは相当でないというべきである。

その余の、前記仮名預金については、いずれも払い戻しと預金との関係を検討しても、時間の接着性と金額の類似性を総合して検討して関連性を窺わせるに足りるものは認められず、他に預金の原資についてこれを窺わせるものは何ら見当たらないから、それぞれの売上金をもつて預金したものと推認することができる。

四  簿外経費について判断する。

1  原告一福商事関係

(一)  原告一福商事が昭和五一年九月期において久保郁子に支給した給与一三万一〇〇〇円が簿外経費であること、昭和五一年九月期以前の繰越欠損金のうち昭和五一年九月期の所得金額から控除すべき繰越欠損金が七一八万五八五九円であることは当事者間に争いがない(被告の主張1(二)(3)〈2〉、〈3〉)。

(二)  衛生費の簿外経費について判断するに、前記三1(二)(3)認定のとおり、原告一福商事は、昭和五一年九月期において、二万〇四六九組のタオルセツトを使用しながら一万〇六七九組分のリース代金しか経費として計上していなかつたから、未計上の九七九〇組分のリース代金(昭和五〇年一〇月から昭和五一年七月までのリース代金)五三万八四五〇円が簿外経費となる。

2  原告横浜起業関係

(一)  原告横浜起業が昭和五一年二月期において久保郁子に支給した給与四万八〇〇〇円が簿外経費であること、昭和五一年二月期以前の繰越欠損金のうち昭和五一年二月期において所得金額から控除すべき繰越欠損金が四六二万一〇四六円であることは当事者間に争いがない(被告の主張2(二)(3)〈2〉、〈3〉)。

(二)  衛生費の簿外経費について判断するに、前記三1(二)(7)認定のとおり、原告横浜起業は、昭和五一年二月期において、二万三一五八組のタオルセツトを使用しながら半分の一万一五七九組のリース代金しか計上していなかつたから、未計上の一万一五七九組のリース代金六三万六八四五円が簿外経費となる。

(三)  原告横浜起業が昭和五三年二月期において平田喜彦に支給した給与一五八万円、久保郁子に支給した給与一八万円がそれぞれ簿外経費であることは当事者間に争いがない(被告の主張3(二)(3)〈2〉)。

(四)  原告横浜起業の昭和五三年二月期における衛生費の簿外経費について判断するに、前記三1(二)(7)認定のとおり、原告横浜起業は、昭和五三年二月期において、二万六一四四組のタオルセツトを使用しながら半分の一万三〇七二組しか使用しなかつたとしているものの、<証拠略>によれば、同原告は、同期におけるタオルセツトリース代金について、一万三〇七二組のリース代金と六万六四五〇円(昭和五三年八月分)を加算した金額をリース代金として計上していることが認められるから、一万三〇七二組のタオルセツトリース代金七一万八九六〇円から六万六四五〇円を控除した六五万二五一〇円が簿外経費となる。

3  原告ら主張の簿外経費について判断する。

(一)  原告らは、全国友愛連盟総会に対して平穏かつ円滑に営業を継続するために顧問料、紹介料等の名目で金員を支出しており、原告一福商事が昭和五一年九月期において七二〇万円、原告横浜起業が昭和五一年二月期において七二〇万円、昭和五三年二月期において四八〇万円をそれぞれ支出しているから、これを簿外経費として損金に算入すべきである旨主張する。

そこで検討するに、<証拠略>によれば、山村鉄夫は、九州にある店舗が暴力団の嫌がらせを受けたことから、東京都新宿区内にあつた暴力団組織である全国友愛連盟総会に依頼して嫌がらせ行為を止めさせて貰い、その後毎月又は盆、暮に数百万円を支払つていたこと、右支払金は、特定の行為を前提とする、定額、定期的な報酬の支払いを合意して支払われたものではなく山村鉄夫の判断により暴力団組長の言動を窺いながら時に応じて支払つていたものであることが認められる。

右事実によれば、山村鉄夫が全国友愛連盟総会に対し金員を支払つていたことは認められるものの、右支払金が原告らの支出として、その収入金から支払われたと認めるに足りる証拠はないうえ、右金員が、支払の前提となる役務の提供、金員の支払いについて合意を欠き、不定期かつ随時の支払いであることに照らし、原告らの営業維持のための正当かつ相当な支払いであると認めることもできない。

したがつて、原告らが顧問料又は紹介料名目で全国友愛連盟総会に支払つた金員を簿外経費と認めることはできない。

(二)  原告横浜起業は、山村鉄夫が山村関連会社の受託者として行つた株式取引による損失二億七二八二万二一四六円のうち、三〇〇〇万円を昭和五三年二月期における簿外経費とすべきである旨主張する。

そこで検討するに、<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

山村鉄夫は、山村関連会社九社から小口経費又は各店において支払う給与等の経費を除外した入浴料収入及び雑収入のすべてを送金させていたところ、山村関連会社から送金された資金がすべて山村個人が自由に処分できるものであるとの認識のもとに、その送金された金員を各社ごとに分けて保管、運用することをせず、山村鉄夫及び山村一恵の給料、賃貸料収入と混同してこれを保管、運用又は費消し、しかも、各社ごとの保管金額及び運用金額を明示した帳簿等を作成することもしていなかつた。

山村鉄夫は、積極的に個室付特殊浴場業の店舗数を増加させる目的から、また、店舗数が九店になつた後においては個室付特殊浴場業のように売春防止法による摘発を受ける事業から他の事業に変わる目的から、昭和五一年四月八日から昭和五二年四月二六日までの間にわたつて、山村鉄夫個人の判断に基づいて、山村関連会社から送金された資金により、日興証券株式会社横浜支店及び横浜駅前支店を通じて株式売買を行い、利殖をはかつたが、かえつて二億三四〇六万九九二七円の損失を被つた(<証拠略>)。

なお、山村鉄夫は、右株式取引を行う際、取引名義を自己の名前だけではなく妻の山村一恵、友人の平山武雄、従業員の楠本隆志、高倉武雄、福田洋途、架空の鈴木圭一の各名義も使用していたが、日興証券株式会社の担当者は、右名義による取引がすべて山村鉄夫個人の取引であると理解しており、原告らを含む山村関連会社が出資していることはもちろんのこと、山村関連会社の社名、所在地等についてさえも全く知らされていなかつた。

その後、山村鉄夫は、株式売買に投じていた資金を回収し、東陽メンテナンス株式会社が昭和五二年に東京都新宿区内に土地を取得するための資金や同社の運転資金に充てたが、同社は経理処理において右山村からの資金を山村鉄夫個人からの借受金として処理していた。

以上のとおりであつて、これに反する証拠はない。

右事実によれば、山村鉄夫は、原告らを含む山村関連会社から送金された資金を自己の自由に処分しうる財産との考えのもとに自己の利益をはかる目的から株式取引を行つたものであり、原告横浜起業を含む山村関連会社が山村鉄夫に委託して行わせた取引であると認める余地はなく、右取引から生じた損失を原告横浜起業の損金に算入することはできない。

(三)  原告らは、奥山博久に対して簿外で機密費、交際費等を渡しており、原告一福商事が昭和五一年九月期において六一〇万円、原告横浜起業が昭和五一年二月期において一四九〇万円、昭和五三年二月期において一四四〇万円となるから、右各金額を簿外経費とすべきである旨主張する。

そこで検討するに、<証拠略>の記載の中には、奥山博久が機密交際費として、原告一福商事から昭和五一年九月期において六一〇万円、原告横浜起業から昭和五一年二月期において一四九〇万円、昭和五三年二月期において一四四〇万円を受領していた旨の記載部分があり、また、奥山博久作成名義の原告横浜起業宛の一九四〇万円、一七〇〇万円、一四四〇万円の各領収証(<証拠略>)が存する。

しかし、<証拠略>によれば、山村鉄夫は奥山博久に対し、山村関連会社ごとに分けて機密交際費名目の資金を渡していたわけではなく、また、一回に数十万円単位の金銭を渡していたに過ぎないことが認められるところ、右各書証は原告らそれぞれを指定した記載になつているうえ、各期の金額を一括した記載になつているから、記載された金額に照らし、いずれの証書も受領した以後に一括して作成されたものと窺えるのであつて、右各書証の記載には信用性がないというのほかない。

また、仮に山村鉄夫から奥山博久に対して機密費、交際費として金員が支払われていたとしても、<証拠略>によれば、奥山博久は、瀬戸観光有限会社及び松山観光有限会社の経営に専ら従事し、山村鉄夫が売春防止法違反容疑で検挙されるのを防止する目的で同人から特別の給与を貰つていたが、原告らの取締役等の地位には就任していなかつたこと、平田喜彦は、昭和五〇年一〇月から昭和五一年八月中旬まで原告一福商事の、昭和五〇年一〇月から昭和五二年八月中旬まで原告横浜起業のそれぞれ店長をしていたこと、山村鉄夫は奥山博久に対し、売春防止法違反に基づく摘発を免れるために捜査当局又はその関係者に対して金員を交付し、あるいは入浴客を紹介してくれたタクシー運転手に対する謝礼の支払を委託し、その費用として機密交際費の名目で金員を交付していたことが認められるところ、これらの事実によると、奥山博久に渡された機密交際費は、瀬戸観光有限会社及び松山観光有限会社に入浴客を紹介してくれたタクシー運転手等に対する紹介料又は原告らの犯罪行為発覚を阻止するための工作資金というべきであり、他に右奥山が原告らのためにタクシー運転手に紹介料を支払つたことを認めるに足りる証拠はなく、また、犯罪行為摘発を阻止する工作費用を必要経費と認めることは、課税上の問題であるとしても法の理念からして到底許容できるものではなく(最高裁判所昭和四三年一一月一三日判決民集二二巻一二号二四四九頁参照)、以上いずれの点においてもこれを原告らの経費とすることはできない。

したがつて、原告ら主張の機密費及び交際費を簿外経費と認めることはできない。

(四)  原告横浜起業は、昭和五一年二月期において、奥山博久に対して四五〇万円の給与を支払い、平田喜彦に対して六〇〇万円の歩合給を支払つたから、簿外経費とすべきである旨主張する。

そこで検討するに、<証拠略>の記載中には、奥山博久が原告横浜起業から昭和五一年二月期に四五〇万円の給与を受領した旨の記載部分があり、また、奥山博久作成名義の原告横浜起業宛の一九四〇万円(交際費名目)の領収書(<証拠略>)が存し、さらに、<証拠略>によれば、山村鉄夫は、各店の店長に対して、源泉徴収されると支給金額が低くなり、また、歩合給を公表すると売上金額を除外して申告していることが発覚することをおそれて、簿外で給与を支給していたこと、平田喜彦は、昭和五〇年六月ころから原告横浜起業の店長であつたものであるが、昭和五一年一二月までは総売上金額から経費及び四〇〇万円を除外した金額の半額を簿外の歩合給として貰う約束で、実際には昭和五一年二月から同年一二月までの間において総額約四〇〇万円の歩合給を受領していたことが認められる。

しかし、奥山博久に対する給与の支払いを証する右書証は、いずれも支払日以降に作成されたものと窺えるうえ、領収書(<証拠略>)は交際費名目で一括した金額が記載されており、右書証をもつて、原告横浜起業から奥山博久に対して給与の支払いがあつたとは認め難く、また、仮に奥山博久が原告横浜起業から四五〇万円を受け取つていたとしても、前記認定のとおり、奥山博久は、瀬戸観光有限会社及び松山観光有限会社の経営に専ら従事していた者で、原告横浜起業の取締役等でさえないのであつて、奥山博久が原告横浜起業のいかなる仕事に従事していたかを認める証拠はなく、むしろ、前記認定のとおり、原告らが売春防止法違反容疑で摘発された際、その責任が山村鉄夫にまで及ばないようにするため、奥山博久に対して給与が支払われていたのであり、このような支出をもつて必要経費とは到底認め難い。

また、平田喜彦についても同人が昭和五一年二月期において歩合給として原告ら主張の金額の支払いを受けたことを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、原告横浜起業が主張する給与及び歩合給を経費とすることはできない。

(五)  原告横浜起業は、昭和五三年二月期において、神奈川県韓国綜合教育院に対して三〇〇万円を簿外で寄付したから、これを損金に算入すべきである旨主張する。

そこで検討するに、神奈川韓国綜合教育院院長李鏡学作成名義の原告横浜起業宛の三〇〇万円の領収証<証拠略>が存するが、右書証が真正に成立したことを認めうる証拠がないうえ、神奈川韓国綜合教育院がどのような法人又は団体なのか、また、原告横浜起業がどのような趣旨、経緯によつて三〇〇万円もの多額の寄付を行つたか等の事情を認定する証拠もなく、さらに、右領収証には寄付金の記載はなく広告費として受領した旨の記載となつているところその趣旨、経緯を明らかにする証拠もないのであつて、右書証をもつて、原告横浜起業が三〇〇万円の寄付を行つたとは認め難い。

したがつて、原告横浜起業が主張する寄付金を損金に算入することはできない。

五  以上により、原告らの所得金額を算定すると次のとおりとなる。

1  原告一福商事の昭和五一年九月期

(一)  前記三1(一)のとおり、原告一福商事の昭和五一年九月期における申告所得金額は五九八万三五六八円である。

(二)  前記三1(二)認定のとおり、タオルセツト使用数量に基づく推計によれば、昭和五一年九月期における入浴料収入が八一五九万五七六九円、雑収入が五二七万三一四三円となり、前記三1(一)のとおり、原告一福商事の申告に係る入浴料収入が五八〇六万五一一二円、同原告が帳簿に記載していた雑収入が四万六五五〇円であるから、これらを控除した二八七五万七二五〇円が計上漏れとなつている。

(三)  前記三1(二)認定のとおり、預金額に基づいて総収入を推計すると、六九一〇万三一六三円となるが、前記三3(二)判示のとおり、右預金額には二〇〇万円を二重に計算したおそれがあるから、右金額から二〇〇万を控除した六七一〇万三一六三円が総収入額となり、原告一福商事が申告した入浴料収入五八〇六万五一一二円、同原告が記帳していた雑収入四万六五五〇円よりも八九九万一五〇一円多額となり、右金額だけ計上漏れとなつている。

(四)  そこで、原告一福商事の昭和五一年九月期の申告所得金額に右計上漏れの収入金額を加算すると、タオルセツト数量から推計した場合の所得金額は三四七四万〇八一八円となり、預金額から推計した場合の所得金額は一四九七万五〇六九円となる。

(五)  右金額からそれぞれ前記四1記載の簿外経費等の合計七八五万五三〇九円を控除すると、タオルセツト数量から推計した場合の所得金額は二六八八万五五〇九円となり、預金額から推計した場合の所得金額は七一一万九七六〇円となる。

そうすると、本件一の更正処分(審査裁決により一部取消された後の金額)は、預金額による推計に基づく所得金額によると約二〇〇万円過大な所得認定となるものの、前記三1(二)認定のとおり、預金の入金額は売上金から小口の経費等を控除した収入を入金しているうえ、その全額が入金されていたわけでもなく、前記三3判示のとおり、原告一福商事の預金入金額は実際の売上金額に比較して約三パーセント過少であることからすると、六七一〇万三一六三円の一・〇三倍に当たる六九一一万六二五七円が実際の売上金額とも考えられるのであり、そうすると預金額からの推計によつても本件一の更正処分により認定した所得金額を上回ることになり、さらに、タオルセツト数量による推計に基づく所得金額は、本件一の更正処分により認定された所得金額よりも約一七〇〇万円も多額であることを考慮すると、本件一の更正処分が同原告の所得を過大に認定したものとはいえない。

2  原告横浜起業の昭和五一年二月期

(一)  前記三1(一)のとおり、原告横浜起業の昭和五一年二月期における申告所得金額は九二四万五三七一円である。

(二)  前記三1(二)認定のとおり、タオルセツト使用数量に基づく推計によれば、昭和五一年九月期における総収入金額が七〇六一万三八二一円となり、前記三1(一)のとおり、原告横浜起業の申告に係る入浴料収入が四〇〇一万七〇〇〇円、同原告が帳簿に記載していた雑収入が二万七八八〇円であるから、これを控除すると同原告の昭和五一年二月期の収入は申告収入金額よりも三〇五六万八九四一円多額となり、右金額だけ計上漏れとなつている。

(三)  前記三1(二)認定のとおり、預金額に基づいて総収入を推計すると、六六九九万四二一七円となり、原告横浜起業が申告した入浴料収入四〇〇一万七〇〇〇円、雑収入が二万七八八〇円よりも二六九四万九三三七円だけ多額となり、右金額だけ計上漏れとなつている。

(四)  そこで、原告横浜起業の昭和五一年二月期の申告所得金額に右計上漏れの収入金額を加算すると、タオルセツト数量から推計した場合の所得金額は三九八一万四三一二円となり、預金額から推計した場合の所得金額は三六一九万四七〇八円となる。

(五)  右金額からそれぞれ前記四2(一)、(二)記載の簿外経費等の合計五三〇万五八九一円を控除すると、タオルセツト数量から推計した場合の所得金額は三四五〇万八四二一円となり、預金額から推計した場合の所得金額は三〇八八万八八一七円となる。

そうすると、本件二の更正処分(審査裁決により一部取消された後の金額)は、タオルセツト数量又は預金額による推計に基づく所得金額よりも過少な所得認定となつており、所得を過大に認定した違法はない。

3  原告横浜起業の昭和五三年二月期

(一)  前記三1(一)のとおり、原告横浜起業の昭和五三年二月期における申告所得金額は二三三二万二一九三円である。

(二)  前記三1(二)認定のとおり、原告横浜起業の昭和五三年二月期における入浴料収入は七五六〇万一〇〇〇円、雑収入は四一一万七七九〇円であり、前記三1(一)のとおり、原告横浜起業の申告に係る入浴料収入が六九〇四万一八一五円、同原告が帳簿に記帳していた雑収入が四万八一五〇円であるから、これらを控除すると同原告の昭和五一年二月期の収入は申告収入金額よりも一〇六二万八八二五円多額となり、右金額だけ計上漏れとなつている。

(三)  被告が原告横浜起業の昭和五二年二月期における所得を減額更正処分したことにより、同原告の昭和五三年二月期に計上した事業税の認定損の金額が八五万二三六〇円過大になつていること(被告の主張3(二)(2))は当事者間に争いがないから、右過大金額を所得に加算すべきことになる。

(四)  そこで、原告横浜起業の昭和五三年二月期の申告所得金額に右計上漏れの収入及び事業税認定損の過大金額を加算すると、同原告の所得は三四八〇万三三七八円となる。

右金額から前記四2(三)、(四)記載の簿外経費等の合計二四一万二五一〇円を控除すると、原告横浜起業の昭和五三年二月期の所得金額は三二三九万〇八六八円となる。

そうすると、本件三の更正処分(審査裁決により一部取消された後の金額)は、右所得金額よりも過少な所得認定となつており、所得を過大に認定した違法はない。

4  以上のとおり、本件一ないし三の各更正処分には、原告ら主張の所得金額を過大に認定した違法はない。

六  重加算税の賦課決定について判断するに、前記二2認定のとおり、原告らは、実際の所得金額を隠ぺい又は仮装するために真実の収入金額を記載したリスト表を破棄し、売上金額を一部除外したリスト表、現金出納帳を全面的に作り換え、それに基づいて納税申告していたのであるから、国税通則法六八条一項に該当し、被告の行つた重加算税の賦課決定は適法である。

なお、原告らは、原告らの雑収入の計上漏れは単純な過少申告であつて、ことさらに収入金額を隠ぺい又は仮装したものではないから、雑収入の計上漏れについて重加算税の賦課決定を行つたことは違法である旨主張する。

しかし、前記五判示のとおり、原告らが帳簿に記載していた雑収入金額は、実際の金額の一パーセント足らずの金額であり、単に過少申告していたに過ぎないものとは言い難く、また、<証拠略>によれば、山村鉄夫は、原告らの経理事務を行つていた妻山村一恵に対し、入浴料収入を除外するだけではなく、ホステスから徴収しているタオル代、コーラ代名目の雑収入についても全額除外して納税申告するように指示していたこと、山村一恵は、現金出納帳等に雑収入の記帳をことさらに記帳せず、雑収入の金額を記載したメモ等もすべて破棄していたことが認められ、右事実によれば、原告らは雑収入についても課税標準等又は税額等の計算基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、それに基づいて納税申告していたというべきであつて、単なる過少申告とはいえず、重加算税の賦課決定を行う要件を充足していたというべきである。

したがつて、被告が本件一ないし三の各更正処分に応じて行つた重加算税の賦課決定には、原告ら主張の違法はない。

七  よつて、原告らの請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川上正俊 宮岡章 西田育代司)

別表一ないし一二 <略>

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